詩人になりたかったら
詩をかかないで
スペイ川の水を飲み
ライ麦パンを喰べて
黒ツグミの歌を歌うこと
カレンダーは果実
そうすれば長生きするし長生きすれば
だれだって詩人になれる
ぼくのことを
パーじいさんなんて呼ぶけれど
ぼくにだって青春はあったのだよ
一〇五歳のときの恋愛はすばらしかったな
田村隆一「夜明けから夢がはじまる」部分
田村隆一といえば酒である。その土地、その土地の酒がよいのだと詩人はいうけれど、オールド・パーの印象が強い。パーじいさんが詩人だというのは、ウェストミンスター寺院の墓の分類で、詩人のところにあったからだそうだ。
オールド・パーの一番安いやつはそれほど高くもないけれど、安くもない。同じだけのお金を出すならラムとテキーラを一本ずつ買うか、癖のあるシングル・モルト・ウィスキーを一本買うだろう。でも、一本もオールド・パーを飲まないで死ぬのもどうかと思ってはいた。
リキュールワンダーでのことである。グラスワンダーとは関係ない。関内でもなく桜木町の話だ。オールド・パーの一番安いのが2,880円(税抜き)で特売していた。おれは金がない。とくに今は金がない。けれどもおれはオールド・パーを買うことにした。
そしておれはオールド・パーを飲んだ。おれは酒をなにかで割る習慣がない。ストレートで飲んだ。あまり癖のない、上品な、質のいいスコッチだった。ブレンデッド・ウイスキーのいいやつだ、と思った。おれは納得した。
納得したおれは、満足したおれではない。そうだな、この酒はきっと誰かと語らうにいい酒だろう。饒舌になる酒だろう。そんなふうに感じた。おれが好きなのは、人によっちゃ顔をしかめるような、薬品臭いシングル・モルト・ウィスキー。
さあ、オールド・パーはどうしよう。スーパーで売ってる1,000円のスコッチのようにごくごく飲んでしまおうか。それには少しもったいない。そしておれはまたべつの、ごくごく飲める安いアルコールを買う。金はないけど外で飲まないから安上がりだ。おれの中身はがぶがぶ君。それでも少しはいい酒を飲んで死にたいとは思ってる。