フランスで一番のスコッチ

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<フランスで一番売れているスコッチです>

おれは貧乏人でいてアルコールにおぼれているような人間なので、安売りの酒屋に行ったりもする。

 

そこで見つけたのが「フランスで一番売れているスコッチ」というポップだった。

 

スコッチ……英国はスコットランドで造られたウイスキーである。厳格な基準があり、それを満たした銘柄のみに名乗ることを許された酒である。

 

一方で、フランス。フランスといえばワインではないのか。と、ここのところフランス人のワイン離れなんて話も聞くけれど、スコッチに急接近しているという話も聞かない。

 

「フランスで売れている、スコッチ」。そこには組み合わせの妙な感じがあった。おまけに安い。おれは迷わずそれを買った。なにせフランスで一番売れているのだ。フランスというある種の文化、経済の大国において一番売れている。悪い酒のはずがない。

 

だが、妙な感じは否めない。たとえればなんだろうか。「ジャマイカで一番売れている納豆」、「ブラジルで一番売れている餃子の皮」、「ロシアで一番売れているナンプラー」……なんでもいい、なんか変だな、と思う。

 

でも、そこにビジネスのチャンスがあるのですよ、あなた。スコッチでもって英国で勝負するのはすごくたいへんだ。だが、フランスなら? フランスなら、なにかコネクションがあれば勝負になるかもしれない。もちろん、トップに立つには品質もよくなければならないだろうし、価格のあたりで勝負しなければいけないかもしれない。

 

でも、そこで勝ち抜いたら、日本のちょっとおかしな人間が「フランスで売れているスコッチか!」と勝手に感心して買うようなことも起こるのである。「フランスで一番売れているワインか!」というのに比べると、そこに至る難易度はかなりことなるはずである。

 

と、「日本のちょっとおかしな人間」と書いてしまった。まあ、おれのことなのだけれど、どれだけ他国人にアピールするかはわからん。わからんが、おれはおもしろいと思った。「え、フランス人、スコッチ? どんなのが好きなの?」と。

こんなおもしろさを好む人間がどれだけいるかわからん。わからんけれど、おもしろさはある。ちょっとしたミスマッチが生むおもしろさだ。

 

そしておれは「フランスで一番売れているスコッチ」を飲む。あまり癖がなく、後味すっきりだ。悪くない。多くの人に愛されるタイプだ。

 

おれはそのスコッチを飲みながら、スコッチを飲むフランス人のことを考える。おれにはフランス人のことはよくわからぬ。だが、こんなスコッチ飲んでるんだな、と思う。それだけだ。