さて、帰るか。

 小さい頃はものがあって困らなかった。家のものもお金もだんだん自然に増えていくものだと思っていた。家族や親戚も増えていくものだと思っていた。
 決定的な瞬間はいつだったのか、全てが下降しはじめた。新しいものはなくなり、お金は僕の知らないところで底をつき、ついには家までなくなってしまった。
 ついでに人と人とのつながりも簡単に消えていった。人間は死んでも消えるし縁が切れても消える。そこには何らの差もないように思える。
 そして下降はいっこうに止まらず、上昇への転機として打った手も無駄打ちだったようだと最近分かってきた。さらに落ちて、落ちて、落ちる先はよくわからない。
 それなのに僕は今日の競馬も野球も楽しみだ。楽しみじゃなきゃ困るんだ。娯楽だとか余暇だとか甘いもんじゃない。人生の方と釣り合いが取れなきゃいけない。
 かくして競馬は楽しくなくてはならない、プロ野球は楽しくなくてはならない、小説は楽しくなくてはならない、漫画は楽しくなくてはならない、ゲームは楽しくなくてはならない、映画は楽しくなくてはならない、お笑い芸人は楽しくなくてはならない、ウェブサイトは楽しくなくてはならない、格闘技は楽しくなくてはならない。ニュースは楽しくなくてはならない……。