『マリリン・モンロー・ノー・リターン』野坂昭如

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 小説『マリリン・モンロー・ノー・リターン』を手に入れた(id:goldhead:20060501#p1)のをきっかけに、たった一度のテレビ映像だけで、俺に大きなインパクトを与えた名曲、「マリリン・モンロー・ノー・リターン」を再び聴きたいという欲求にとらわれ、思わずアルバムを買い、さっそくMP3プレーヤーに入れて昨夜の帰り道から聴き、「これはよいものを買った」と、口元が思わずほころぶほどすばらしい代物。野坂昭如の艶と色気と虚無感とダンディさをない交ぜにした唄はもちろんのこと、これはあまり予想していなかったが、楽曲のすばらしさにも舌を巻き、俺はここ三年くらい買ったなかで、一番のアルバムじゃないかとすら思った次第。

1.マリリン・モンロー・ノー・リターン
 冒頭を飾るのが、表題曲である「マリリン・モンロー・ノー・リターン」で、これはもう思い描いていたものを裏切らない名曲。繰り返される「この世はもうじきおしまいだ」のフレーズにもめろめろ。

2.黒の舟唄
 これは思いがけず思い出の曲で、母がよくこの曲の「row & row」のフレーズを口ずさんでいたのだ。俺は「ローエンドロー」の意味がわからず、また、この箇所しか口ずさまないものだから、結局のところよくわからないままだったが、オリジナルは野坂の曲だったというのだから驚きで、おそらく母は加藤登紀子がカバーしたものを聴いたのだろう。ちなみに、男と女の間には法律が横たわっているのではなく、「row」は「漕ぐ」の意。この曲にはぎぃぎぃ櫓の音が入っている。

4.かもめの3/4(シーサン)
 愛唱歌にしたくなるほどすてきな曲。これ聴きながら夜の港でも歩いてみたくなる。なんてロマンチ、俺。

6.花ざかりの森
 「春は夏に犯されて 夏は秋に殺されて 秋は一人でおいぼれて 冬がみんなを埋める」のさびが強烈。「花ざかりの森」といえば三島由紀夫で、「桜の木の下に」は坂口安吾を思わせるが。

10.チュウインガム・ブルース
 焼け跡・闇市のせつない歌だが、曲調の明るくも寂しさが印象的。

11.ヴァージン・ブルース
 「じんじんじんじん 血がじんじん」で「あなたもヴァージン わたしもヴァージン」ですよ。これを元にした映画があるというので、それも気になるところ(ASIN:B0000UN58O)。

13〜16.春・“花”、夏・“蛍”、.秋・“紅葉”、冬・“雪”
 四部作とでも言うのだろうか、これまた圧巻。特に「火垂るの墓」を思わせる「夏・“蛍”」がせつない。最後の冬にいたって、千年の雪が降りつもって真っ白けの世界が到来する。

……というわけで、かいつまんでメモしてみたが、もちろん全曲名曲と言ってしまおうか、そのくらいの俺の気に入りっぷり。しかし、歌謡曲はどこに消えたのだろう、何で今の世に野坂昭如の如き歌い手はいないのだろう。この世はもうじきおしまい、か。