歩きたいから靴を買う

 気づいてみればじめっとして暑い季節になっていた。なぜかひとり田舎道を炎天下てくてくてくてく歩くという想念にとらわれた。歩くためには靴が必要だと思って靴を買った。
 いや、靴くらいは持っている。珍しくもなく高くもない靴を買っては、いろいろ履くものだから履きつぶすこともなく、ただただ増えていく。
 Timberlandのブーツを持っている。それほどごつくはない。歩いていてもつかれない。快適だ。しかし、さすがに夏は熱いような気がする。
 PUMAのフットサル用シューズを持っている。フットサルはやらない。これは自転車を、トゥークリップ付きのペダルを漕ぐために持っている。
 NIKEのランニングシューズを持っている。これは非常に軽いが非常に競技用であってウォーキングにもジョギングにも向かない。
 PUMAのランニングシューズを持っている。これはジョギング向きでたいへんいいが、最近走っていないので出番がない。
 NIKEの再生材料から作られたミドルカットのシューズを持っている。これはおもしろい履き心地だが、履くのが面倒だからあまり履いていない。
 Caravanの革靴を持っている。スーツっぽい格好のときにも履けるやつだが、底もビブラムなのでウォーキングにも行けるかもしれない。ただ、若干かかとに合わないところもあるし、そもそもスーツを着ないので出番が少ない。
 adidasのスニーカーのようななにかを持っている。これは足にあうし、グリップもいい。多少表面の革がくたびれてきたが、まだ履いていきたい。
 JUMPのスニーカーを持っている。Comverseのオールスターのようなものだ。「人類」と書いてあってかわいい。長く歩くと底が薄いので足が痛む。
 REGALの革靴を持っている。スーツを着ないので出番はない。
 PUMAの革のスニーカーを持っている。買ってすぐにバックリ裂けたが、強力接着剤で補修して長くもった。しかし、最近また裂けて、捨てようかどうしようか迷っている。
 CROCKSのサンダルを持っている。職場で履いている。近くのコンビニか牛丼屋くらいまでは行く。ものすごく歩きやすいし、荷降ろしなどの作業をしてもまったく問題はない。ただ、底がけっこうすり減っていて、雨の日のローソンの床で何度か死にかけた。
 ……以上のように、俺には夏の日にてくてくてくてく歩ける靴がない。森の中を、あぜ道を、てくてくてくてく歩ける靴が。
 そこで俺はMERRELLのウォーキングシューズを買った。かなりきつめの作りで、NIKEで26.5cmの俺が27cmでしっくりくるという塩梅だった。山登り用ほどごつすぎることはなく、トレイルランニング用ほど軽すぎることもない。GORETEXなのでなにかすばらしい機能もあるだろう。雨の日も歩けるだろう。どこまでも歩けるだろう。Deuterのバックパック背負って炎天下の田舎道を歩いて、君に会いに行けるだろう。俺はそう思う。
 けれど俺は、そんなふうに遠くまで歩いてきたいと言いながら、靴を取っ換え引っ換えするばかりで、まったくどこにも行けない。俺はそう思う。