アルコールと蕁麻疹に関する仮説

 母は、生まれて初めての勤め先の銀行の、生まれて初めての歓迎会の席で、生まれて初めてお酒を飲んで、生まれて初めて全身蕁麻疹浮き出て、生まれて初めて救急車で病院送りになったという。父は、本来アルコールに強くない体質ながら、飲んで鍛えた昭和の人間であり、結果がアルコール依存症と人格の破綻である。
 俺はといえば、赤くなりやすい体質ではあってあまり強いとはいえない。ただ、生活からアルコールを断つということは想像できない。
 さて、こないだの土曜日のことだったろうか。めずらしく安居酒屋の安飲み放題で安アルコールを大量に摂取して、電車で乗り過ごすくらいに酔ったのだ。安アパートに帰ったあと、そうそうに安ベッドで安眠したのだけれども、その翌朝のことである。いつものあいつらがぜんぜんいないのだ。あいつらといえば、慢性蕁麻疹のやつらのことである。
 ここで俺は大胆な仮説を立てた。あるいは、古代の人類の呪術的類推である。すなわち、大量のアルコールが体内に侵入することにより、「さて、今日も幻の侵入者相手に幻の防衛戦を繰り広げて、皮膚の下を赤くする仕事をしよう」と思っていた連中が、「おい、今日はそれどころじゃない、酒で赤くなるから、そっちに行け」という指示を受けたのではないか。アルコールに対処するために、クリエイティブでない無駄働きを休んだのではないか。
 これを再度検証するのは簡単な話である。昨夜、俺は焼酎をいつもよりたくさん飲んだ。飲んですぐに寝て、朝起きた。起きたら、あまり蕁麻疹の人たちが出ていないではないか。
 とはいえ、酒代、吐き気、頭痛、悪寒、二日酔いのデメリットが大きく、この研究はここでおしまいである。おしまい。

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