けいおん!!の一番くじでなんかでかいの当たったんだけど、俺はなにか持っているのだろうか?

 店内にはドヤの老人と中国人の若いファミリー、チンピラ、ときどきヤクザ。棚にはほかのコンビニよりずっと多いワンカップ大関、軍手、白米。そんなローソン、おれの行くローソン。

 ある晩、そんな店内に「Utauyo!! MIRACLE」が流れてきたのである。あらゆる意味で似つかわしくない雰囲気。ドヤ顔のドヤではないドヤ系空気の中に、「ほんとに大好きっ!! テンション上昇 ルララ Powerful Gig Timeハートって ハートって ワクワク探す天才」である。「ハッピーはいつだってね "今"感じるもの 生きろ乙女 本能で、裸の」である。
 俺はもう、なにか涙が流れてきそうになった。近い未来か遠い未来か寿町の住人になった俺が聴いている、そんな気持ちになった。失われる美しいものがあると思った。俺は帰ってすぐにネットで安いフィギュアを注文した。それは涼宮ハルヒのものだった。べつになんでもよかったのだ。俺は俺を証すものがほしいと思ったのだ。

俺がこんなにオタクなわけがない - 関内関外日記(跡地)

 そんなローソンに、今夜おれは立ち寄った。立ち寄って、『けいおん!!』のなにかを買うことにした。おれは『けいおん!!』が好きなのだし、律ちゃん隊員なのであって(けっきょく俺はけいおん!で誰が一番すきなんだぜ? - 関内関外日記(跡地))、もはや立ち寄らない理由などなにもなかった。

 そしておれは、律ちゃんのなにかしらとクリアファイルを手に取り、ふと、ほんとうに、ふと、一番くじというものに目が行った。一番よく使うミニストップでは、恥ずかしくて買えなかったイカちゃんのくじのことを思った。一回くらいは、引いてみるべきか。おれは、けいおんまみれの商品をレジに並べ、一番くじの引換券をその上に置いた。
 レジは、日本人の婦人だった。婦人は、すぐにくじ引きの箱を持ってきた。おれは手を突っ込んだ。昼、セブンイレブンの怪物くんキャンペーンくじでは、なぜかニトリルの手袋を引き当てた。今度は、なにか。ペロッと、引き出して、カウンターの上に置いた。店員がめくるのか、俺がめくるのかわからなかった。結局、店員がお釣りの勘定に手間取ってるあいだ、自分でめくって、A賞という文字が見えた。おれは一番くじというものがよくわかっていないので、それが一番大きいものだとは思わなかった。なにか小さなもののひとつでも持って帰れたらと思っていたのだった。

 婦人、「あら、まあ、A賞、ちょっと、確認しますからね!」とハイテンション。「いや、すごい、夕方に10枚も引いていった人がいるけれど、出なかったのに!」と。あれ、運がよかったのですか、おれ。「ちょっと、一等が出たわよ」と、もう一人の店員の、どこの国の人か、名札にカタカナ一文字の若い男の子まで呼ぶ始末。「今日からなのに、初日から出ちゃった。もう売れなくなっちゃう」。「いや、すみませんね、いや、おっきいのですか、当たるとは思わなかったな、ハハハー」。「記念に、クジの紙も持っていきなさいよ」。「ああ、ありがとうございます」。
 よくわからないが、おれは祝福されていたのだし、悪くない気分だった。商店街の福引きでフィンランド旅行が当たったようだった。「おめでとう」と拍手される少年になったような気もしたし、なにか救われるような気にすらなった。ドヤのおっさんたちはなにが起こっているのかわからなかったろうが、おれのまわりには天使がいて、ある種のラッパを吹き鳴らしていた。まったく、一発で引き当てたというのが、なにかしら爽快だったし、6,000円使って引き当てられなかったやつに比べたら相当にいい気分じゃないかと思った。少し小さめのレジ袋にA賞でかきゅんキャラ平沢唯トナカイver.、寒い11月の夕暮れを歩くおれ、まるで悪くない。おれは、空の上の誰かさんに気に入られてるんじゃないのか。
 おれはもう、なにも怖くないし、無敵の気分だった。そうだ、薄々感じてはいたけれども、おれはそもそも、そこらを歩くお前ら凡百の人間にはない、すばらしいプリンスリーギフトを持っているし、まったくのラッキールーラだ、ラッキーソブリンだ。空の上の誰かさんに愛されているし、なぜならきっと特別な存在なのだった。あまり人に言ったことはないが、おれはやはりなにかを持っているし、まったく最強なのだ。ひそかにそうじゃないかと思っていたのだけれども、おれはかなり持っている人間に違いないのだ。

 そうだ、おれは持っている。死ぬ前に一度またがってみておくかという理由だけで、適当に通販(笑)で買ったロードバイク(笑)も持っているし(獄長との一ヶ月のやりとりの末、いくらかのお詫びクーポンをもらったりした上で先週末届いたが、部屋の中でディレイラーをつけたり外したりしているだけで、10cmも走っていない。金は前に書いたとおり、株とか全部処分したので)、今日はiPhone4Sも手に入れた。ソフトバンク優勝記念によくわからない福袋ももらったし、セブンイレブンのクジではニトリルの作業用手袋を引き当てた。おれはまったく幸運な人間なのだし、空の上の誰かさんに愛されてもいる。おれほどの人間が何者かになれないはずもないし、スーパーではキャベツが58円だった。おれはまったくついているし、恐れるものなどまったくなにもない。死ぬのを忘れて永遠に生きたりもするだろう。まったく悪くない気分だし、ほんとうにこの世は祝福に満ちているし、この世の栄光はここにあって、まったく光り輝いて終滅することなどない。そのことを、おれは書き残すし、おまえに伝えたいとも思う。おしまい。

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