この世のすべてのマスゲームの終わりに

 悲痛の叫び、怒号、土を叩く人民の拳、地を覆う嘆きのマスゲーム、一糸乱れぬ兵隊の行進、よく磨かれた旧式戦車の行列、今まさに行われる偉大なる指導者の葬儀。後継者三男同志が壇上の中央、マイクの前に立ち、第一声を発しようとしたそのとき……、突然の爆発。備えられた花は飛び散り、式典の装飾はすべて粉々になる。黒い煙がすべてを隠し、呆然とする人民。
 が、そのとき、ヘリコプターから光るネオンに彩られた黄金のゴンドラ降りてきて、見ゆる人影三つ、右にプリンセス天功、左にアントニオ猪木、そして中央に後継者三男同志、人民服はボロボロ、髪は爆発アフロ、壇上の中央に戻りこう告げる。
 「人民のみなさん、驚かせてすまなかった。ただ、ひとつわかってほしいのは、これによって新たなる指導者である僕は死んでしまったということです。僕はもう新しい党中央でもなければ、将軍様でもないのです。僕はまったく死んでしまった。しかし、こうして生きている。許されないことだ。だから、あなたがたの鍬で、棒で、僕を叩き殺してしまってもかまわない。ただ、僕は一個の自由人としてその死を迎えられることをうれしく思う。僕はそのことを申し訳なく思うけれど、どうしてもこうするほかなかった。
 さあ、これでみなさんも自由になったし、この世に生をうけるありとあらゆる人間がいずれは自由になればいいと思う。そうだ、まったくそうあるべきだと思うのです。まったくの自由であって、恐怖も強制もない、国家も法律も義務もない、そんな世界を願うと、ほかならぬ、かつて僕であった僕、いま僕である僕は宣言したいと思う。
 みなさんはもう自由だし、まったくの自由であってほしいとおもう。あらたに生まれるものすべてが自由であってほしいと思うし、かぎりなく自由であるべきだと思う。すべての旗をへし折ってしまえばいいし、すべてのくだらない肖像画も写真も焼いてしまっていい、ぜんぶ戯言にすぎない。僕のことも八つ裂きにしてくれていい。ただ自由のために歌い、踊ってほしい。歌いたくなければ歌わなくていいし、踊りたくなければ踊らなくたっていいんだ!」
 そう言い終えたかつての後継者三男同志の顔すがすがしく晴れやか、人民、軍人、ぽかんと口開けて指一つ動かせない。その中一人アントニオ猪木、悠然と彼に近づき頬に一発強烈な闘魂ビンタを叩き込む。そこにパチパチと拍手をしながら歩いてくる男一人、後継者争いから降りた彼の長男だった。二人はがっちりと握手して空を仰ぐと、真っ白で大きな大きな光の円盤がすべてを覆う、それはプリンセスの用意したイリュージョンなどではなかったという。



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