想像力の飛躍と着地〜半村良『石の血脈』を読む〜

石の血脈 (集英社文庫)

石の血脈 (集英社文庫)

 国枝史郎神州纐纈城』のあと、「『フルシチョフ回想録』じゃなくて、なにか伝奇読みてえな」って思って(まあ『フルシチョフ回想録』もある種の伝奇かもしらんが。あと、iPhone青空文庫国枝史郎読もうと思ったけど、やっぱ駄目だな。少なくともiPhone4Sでは読書できん。今のところは紙だ)、押し入れ漁ってふと目に入ったのが半村良の『石の血脈』。とっくに読んだと思っていたが、ちらっとめくれば未読であって、一気に引き込まれて読み切ってしまった。
 半村良のなにがすげえって……って、ほかに『妖星伝』と『産霊山秘録』とあと「なんとか伝説」一冊か二冊くらいしか読んだことないんだけど、まあいい。なんだろうか、この地べたの日常社会、この『石の血脈』でいえばまあ昭和社会とかいうことになるんだろうが、まずそこんところに足がついていて、そっから高く遠くに飛んだり、あるいは深く暗いところに潜ったりすんの。で、そこんところの地べたにえらいリアルがあって、たとえば昭和サラリーマンなら深く共感するところがあったりするところから、こう永遠に飛躍するところがある。あるいは、彼らやわれらをとりまく社会のありよう、世界のありよう自体をそのまま伝奇の構造の中にぶっ込むというか、重ね合わせるというか。このあたりうまいよなーって。
 だから、SFとか伝奇っつっても、ふわふわしてねえんだな。『石の血脈』んなかで、おれがハッと思ったのは「権利には明確な境界があるが、権力には明確な境界がない」(手元にないで書いてるから大意)ってふと出てきたあたりだったりして、なんか唸ったりしてね。
 それでもって、解説(おれ持ってるのハルキ文庫版)読んでみれば、半村良は社会経験のストックがなきゃいけねえってんで、あえていろんな職に就き、なおかつ他のライバルのいないところを狙おうってんで、国枝史郎的の伝奇ロマンを復活させようとしたとかで、そのあたりだよなって思ったりして。まあ、なにがそのあたりかっていうとそのあたりなんだけど。そんで、その窮極が、人間社会どころか地球生命のありようまで飛躍して、なおかつ行ったまんまにならない大著『妖星伝』か、などと思うのだけれども。
 ま、そんなわけで、たとえば澁澤龍彦がさらっと観念的に書いたりする「犬狼都市」とかもすきなおれだけれども、ちょっとますます半村良読んでやろうかなどとも思った次第。

関連______________________

澁澤龍彦初期小説集 (河出文庫)

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……「マドンナの真珠」も大好きだな。