I Like The Drugs (And The Drugs Like Me)

 ここのところ数週間、不安感、具体的にいえば動悸と手汗が強い。ベンゾジアゼピン中毒者としてブロマゼパム(商品名セニランレキソタンのゾロ)と、以前処方されて職場に残してあった余り物のアルプラゾラム(商品名ソラナックス)が欠かせない。セニランの方が大きく包括的なイメージがある。一方でソラナックスはピンポイントに急に効く感じがある。アロチノロール塩酸塩(旧商品名アルマール)に関しては、医者に「頓服的に飲んでもいい」と言われていたが、ネットで調べたら時間を守るべき薬のようなので、朝晩に1錠ずつを守っている。おれはアロチノロール塩酸塩に信頼感を抱いている。
 飲んでいる薬を整理する。朝はアロチノロール塩酸塩とセニラン。昼はセニランソラナックス。夜、食後にオランザピン(商品名ジプレキサ)、ロフラゼプ酸エチル(商品名メデタックス←メイラックスのゾロ)、アロチノロール塩酸塩。就眠直前にゾピクロン(商品名アモバン)。アモバンで寝付けぬ場合はセニラン投入。
 抗不安剤で死ぬことについて考えることをやめさせることはできない。いくらか薄ぼんやりとさせて逸らすことができるにすぎない。ワイドショーの藤圭子の自殺のニュースから目が離せない。楽にならない部位がこの体の上の方の丸い物体の中にあるならば、それを破壊してしまえばいい。悪くないアイディア。……などと考えだすと、現実の恐怖から死への安楽への逃避となって、いくらか落ち着くところはある。落ち着くことは悪くない。メデタックスの底上げがいくらかあるのかもしれないが、実感は少ない。
 感情の振幅を抑えてくれるのはジプレキサかもしれない。ただ、おれはどうも双極性障害らしいが、躁の方へ振られることなどほとんどない。大体が鬱々している。これを押し上げるにはSSRIなりSNRIなりが必要なのかもしれないが、医者は自殺実行のリスクがあるという理由で処方しない。べつにタイ製のゾロを香港経由で輸入したりしてもいいのだろうが、月一の通院費、薬代のほかに金を出す気も起こらない。
 音楽や画像のデータ量を圧縮するようにジプレキサが感情の不要部分をカットしている。ベンゾジアゼピンがぼかしツールを使って世界を曖昧なものに見せる。しかし、いずれにせよ確実に希死念慮というものはおれのポケットに入ったままだし、身体の方は動悸と緊張と発汗でままならない。もう少し強い薬があるならばそれを所望しよう。あるいは、ゾロを幾つか先発薬に戻して、ただ入眠のためだけのアモバンをゾロにしようか。いや、ゾルピデム(商品名マイスリー)に戻すか、あるいはトリアゾラム(商品名ハルシオン)を試したいとか言ってみようか。
 薬のことを考えるのは楽しい。「薬で性格は変わらない」とは何度も言われたが、脳の中のどこかの組成が変わるというのだから、面白くないわけがない。おれはおれの背の低さも筋力のなさも気に入らないが、一番気に食わない部位は脳だ。
 おれが違法薬物に手を出していないのは、たまたま育ちがよかっただけなのと、極度の対人恐怖で人間関係が皆無に等しいだけだろう。酒と煙草については、前者は楽しい処方薬を害すること、後者はおれのすきな銘柄がことごとくなくなった上に、価格が高くなりすぎたことで手が出せない。ただ、いずれは酒に溺れるという予感もある。そういえば、母方の祖母の祖母といったあたりの人が、えらく長生きしたのだけれど、死ぬ半年前から日本酒しか口にせずに死んでいったそうだ。かくありたいものといいたいところだが、まず長寿の可能性がおれにはないので無理な話だ。