結局のところ、人間なんだ

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http://anond.hatelabo.jp/20140305014211

 

半額シールを手にした店員を取り囲む。貼られた、去った、惣菜に群れが集まる。ダイバーが与える餌に群がる熱帯魚のよう。そんなきれいなもんじゃない。寿町の住人が身構えているんだ。連中、かごいっぱいにコロッケとか詰め込む。どう見たって一食分じゃあない。弁当を詰め込むやつもいる。一人で食うのか、何人分かの食料なのか、おれにはわからない。おれはまだ辛うじて寿町の住人じゃあないからだ。なんらかの掟があるとしたって、知った話じゃない。あるいは、中華街から買い出しに来たと思しきおばちゃんが目一杯かっさらうこともある。まかないなのかどうか、それも知らない。おれは中華街のコックじゃねえから。

おれ自身がその争いに加わることは稀だ。おれはほぼ毎日お好み焼きを食っているからだ。嘘だと思うならツイッターでもフォローしてみな。

 そんなおれがいざ惣菜の半額に参戦というときもある。もう疲れて、疲れきっちまって、お好み焼き焼く気もおこらねえようなときだ。そういうときは、たいがいスーパーの閉まるぎりぎりの時間だったりする。半額の弁当なり惣菜なりを買うには好都合でもある。でも、一方でもうすっからかんって場合もある。そんなときは本当に途方にくれる。たまたま冷凍食品半額の日だったりすれば、400円台の高い冷凍ちゃんぽんなんかを200円くらいで買えるが、そういう日ばかりとは限らない。それでどうするかって言ったら、いったいどうしてるんだろうか。疲れた頭の日のことを覚えてるはずもない。きっと100円くらいのレトルトカレーとか買ってんのさ。

ともかく、スーパーの惣菜コーナーってのは、人生にくたびれた人間が、ありもしない気力を振り絞る場にほかならねえんだ。パックの中でくたくたになってるコロッケみたいな人生。クタパン人生なんでだよ? ドンチキ、ドンチキ、金赤と黄色の半額シールの空元気ぞいや。早い者勝ちなんだか、早い者負けなんだか、いずれにせよ終着駅かその一駅前だ。

……と、言い切りたいところだが、時間帯によっちゃぜんぜん違うんだ。平日の昼、というのは行ったことがないが、休日の夕方なんかにたまに行くと、雰囲気が違う。惣菜コーナーも活気がある。光ってる。惣菜の連中ときたら揚げたて、作りたてって感じで誇らしげに並んでるし、なんか色合いが違うんだ。Photoshopでいじったろって思うような感じだ。おれはそのまぶしさにたじろいじまう。ひょっとすると客層が違う、違いすぎる。高い刺し身をバカスカかごに入れる若い華僑、高層マンションぐらしの奥様。ああ、場違いなのはおれか、時違いなのはおれか。おれがいちゃいけない場所がある。時間がある。レジのおばちゃんのラインナップも違ってら。

結局のところ、人間なんだ。階級なんだ。おれやあいつらなんだ。それでガラッと世界は変わっちまうんだ。コロッケの見た目まで変えちまう。同じようなやつらが集まって、陰気うみだしてんだ。おれも間違いなくその一人なんだ。他人ごとじゃねえよ。わかってんだ。傍観者のふりしようったって、そうはいかねえんだ。

そんなおれは今日、安売りされていた小麦粉を1kg買った。これで家に小麦粉が5kg。消費税前の駆け込み需要だ。たかだか小麦粉一袋でどれだけ差があるのか。そんなことより、帰りにコンビニに寄ってジンの小瓶買うその金はどこから出てるんだ。わかりゃあしねえ、知った話か。あといくら使える金がある? おれは年明けから一銭も馬券を買っちゃいねえ。

馬券買う金があったら、もっと買いたいもんがある。おれが今必要なのは全てを棚上げにするアルコールの酔い。これに尽きちまう。コンビニから出てすぐ蓋を開けて流し込む。悪くない。悪くないはずなのにぜんぜん酔えない。おれにはアルコールが足りない。処方薬の効果を阻害する? 知った話か。おれが恐怖に耐えうるにはアルコールしかない。おれの疲れを癒やすのはアルコールしかない。ジプレキサレキソタンメイラックスもアロチノロールもアモバンもラムネ菓子みたいなもんだ。おれの憂鬱をどうするもんじゃあない。そこらの小うるさいガキにでも食わせとけ。

そしておれはいつか夕刻の自由な時間を手に入れて、半額シールを待つ人になるんだ。いいや、嘘だ、なれるものか。その前に死にたいんだ。結局のところそうなんだ。おれはもう自分に半額シールを貼っちまってる。廃棄を待ってる。惣菜の半額にすがりつく? 弁当の、かたくなっちまったぼそぼその米を何日もかけて食うのか? かんべんしてくれ。おれはもっと上等な人間だったはずなんだ。全部、昔の話だ。もう先はない。先は長くない。今は夜の帳、アルコールに溺れさせてくれ。それだけの話だ。