おれがおれを飼う理由が見あたらない

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おれはおれにエサを与える、眠る場所も与える、下の世話もする。しかし、おれがおれを飼う理由が見あたらない。ペットのように心の支えになるようなものじゃ決してない。むしろ、心をささくれ立たせる。一緒にいてたのしいことなどない。後悔と恐怖に満ち満ちている。それなのにおれは特売の葉物野菜を切り刻んでは少量の水を入れた雪平鍋に入れ、特売の根菜と冷凍の特売の業務用肉団子(肉含有量25%)何個か電子レンジに入れ、それらを合わせたものを酢醤油で食う。出汁も味ぽんも使わない。一番安い酢と一番安い醤油だ。酢が多めだ。喉と胃に悪いくらい酸っぱい。おれは即座に食い終わる。おれはおれのエサに良いとも悪いとも言わない。考えるのはエサ代のことだけだ。おれはいずれゴミを出す人間から拾う人間になるに違いない。その前におれはおれを捨てるのだろうが。おれはおれをゴミの日の朝に捨ててしまいたい。保健所に引き取らせるのでもいい。この世で金にならない人間を飼う理由なんて何一つありやしない。この世で金にならないということはすべての悪を集めたよりも悪い。金がないというのは大罪であると同時に罰でもある。おれには美しいなにかを見ることも許されていないし、聴くことも、味わうこともゆるされていない。ジプレキサと各種ベンゾジアゼピンが全力をあげておれの血中宅間守濃度を下げている。おれがおれに薬剤を与えられることができなくなったらどうなるのだろうか。おれはおとなしくおれをしめることができるのだろうか。それとも、双極性障害者らしく行動する極に振り切っておかしなことをしでかしてしまうのだろうか。牢獄に入れられるのも、殺されるのも、この世で金がないというのと変わらないことだ。この厄介な生き物を養う理由が見あたらない。それなのにおれは今日もおれにエサを与えるのだ。そいつが急に金の卵を産むことなんてありえない。ただ、人をいたずらに不幸にするような声で鳴くばかりだ。鳴きわめくばかりなら大した害はないのかもしれないが、なにかよいことにつながるわけでもない。おれがおれを飼う理由はやはり見あたらない。