おれは子供のころからけっこうな漫画読みだったのだが、実家がなくなって一家離散、金銭的にどん底になってから十年くらい、まったくの空白期間がある。時期にして、だいたい「ゼロ年代」にあたるだろうか。その間は漫画ばかりでなく、アニメもゲームもほとんど触れていなかった。おれが深夜アニメに目覚めたのは、ほんのわずかに余裕ができた、三十歳を過ぎてからのことである。いくらかは空白期間で途絶えていたものを取り戻そうともしたし、空白期間で有名だった作品に手を出そうともした。けれど、目の前に次々に出てくる新作の方に時間が取られてしまうのが実態だ。
それでも、いつか読まなくては、見なくては、読みたいな、見たいな、と思うものはある。というわけで、『ヘルシング』である。昨秋加入したあと、それほど熱心に利用していないのでどうしようかと思っていたNetflixにあったので、見ることにした。おれが『ヘルシング』について知っているのは、ネットでよく見かける「諸君、私は戦争が好きだ」と、「あれ、これって快楽天関係ある?」という古の記憶である。
で、アニメの『ヘルシング』、これである。おれは最初それがOVA版だとわかっていなかったので、「第一話がやけに長いな。初回だからだろうか」などと思っていた。ネタバレを見たくないので、テレビ放送版とOVA版があることも知らなかった。
そして思ったのは、ウン年前の作品だけど、クオリティ高いな、というところだった。もうちょっと古い感じかと思っていたが、そんなことなかった。そして、とにかくもう、たぶん作者の好きなもの全部ぶっ込んでます、みたいな内容に感動した。一瞬、「男の子の好きそうなもの」と書こうかと思ったが、ジェンダー云々以前に、やはり偏りすぎだろうと思ってやめた。串刺し公、実はすごく強い執事、ヘルシング機関、バチカンの秘密機関、ナチスの残党、武装親衛隊……!
これが地も涙もなく殺し合いをやる。殲滅戦だ。普通だったら、ロンドンをああはしないだろう。事前に止めるだろう。でも、止めねえんだよな。やばい、すごい、見たいものを見せてくる! そんなよろしくない興奮を覚えた。やっぱり、実はこういうの、みんな好きなんじゃないのか? とか思ったりもした。いや、主語が大きいです。
でも、この宗教もナチスも絡んだ作品が、世界各国で売れているという事実(見終えたあとにWikipediaとかで勉強しました)、これがすごいな。なんかこう、どんなに偏っていて、タブーに触れていて、異常なものでも、突き抜けると伝わるものなんだな、とか思った。
そして、ハリウッド実写映画化の話が進んでいるというのだから、これはまたもう、すごいな。
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まあ、「ハリウッドで実写映画化の話が進んでいる」という言葉ほど信用できないものもないわけだが、少なくとも薄い煙が立つ程度には火がついたということではある。とはいえ、日本漫画、アニメ原作で「ほんとに作ったのかよ」というものの出来栄えが今までどんなものだったかと考えると、想像にとどめておくのが幸せなのかもしれない。なにせ、なんかどっか一方向にでも配慮したら、なんか台無しになりそうな代物だから。それが不評だったというテレビ版になるのかな。見てないのでわからないが。あと、Netflixで作っているという『BASTARD!!』もどこまでいけんのか?
まあそういうわけで、おれは空白期間の少しの部分を大量の血で塗ることができた。人生は、というよりアニメにうつつを抜かす時間は有限にもすぎる。「これは果たして面白いのだろうか?」と思いながら新作を追うよりも、すっぱりと切って、空白期間の名作にあたっていくべきなのかもしれない。以上。