グランプリ有馬記念

 五百円単位になっていたのだ、ダービーニュース紙上の発売要項では。だから俺は、五百円単位で組み立ててウィンズ横浜へ行ったのだ。そうしたらどうも、百円単位みたい。ダービーニュースが間違っていたのか、伊勢佐木町あたりの会員用のとこのことだったのか。さてどうなんやら。しかし俺は、五百円単位で買った。昔はこれが普通だったし。
 というわけで馬券はゼンノロブロイの一着固定からダイタクバートラムデルタブルースタップダンスシチーを二着三着に据えた三連単フォーメーションと、同じ組み合わせの三連複ボックス。そして、おさえにタップの単。かなり自信満々の馬券だった。
 しかし、家に帰ってレース前になるとどうも不安に。ロブロイから上記三頭への馬連、藤沢親子丼を警戒してピサノクウカイとロブロイの馬連、体重が戻ったシルクフェイマスとロブロイの馬連、返し馬で芝を気持ちよさそうに走るアドマイヤドンとの馬連、などを買い足す。携帯で馬券が買えるというのはどうもよくないね。決断が鈍る。あれこれあれこれ思い浮かぶ。
 それでもレースは時間になるとスタートする。日刊スポーツの鈴木良一が一緒に近江牛を喰いながら佐藤哲三が漏らしたと書いていたとおり、タップダンスシチーがハナを切った。意外なことにヒシミラクルもはじめから積極策。そしてコイントス。俺はこのコイントスが鍵だったと思った。鞍上は岡部。岡部がペリエに「このペースなら前に来い」と誘導してるのかと思ったのだ。何せ、ロブロイ本命は三頭出しの効果と考えていたから。しかし、それも変な話だ。ペリエは世界トップクラスのジョッキーだものな。まあいいや、翌日の新聞によるとスタートが良かったのですんなり行けたとのこと。あんまり良かったようには見えなかったけど、カメラアングルのせいだろうか。
 というわけで、タップダンスの作る淀まぬ流れにロブロイがぴったりマークの形。レース展開の鍵と思われていたコスモバルクは意外なことに存在を消していた。結局、最後まで見せ場なかった。さすがに疲れじゃないかと思う。しかし、このコンビの今後はどうなるんだろう。無理してもロブロイマークに行くべきだったか、今回は馬のデキが悪かったとするか。
 さて、レースはほぼ二頭のマッチレースの様相に。直線逃げ込みをはかるタップダンスを、ロブロイが襲う。二年前の奇襲と強襲ではなく、力と力のぶつかり合い。結局ロブロイが差し切った。一般にサンデーサイレンス産駒は消耗戦に弱く、スローからのヨーイドン向きというが、このレースを勝ちきったロブロイは異質だ。強い。
 俺の馬券の行方。結局、三着のシルクフェイマスでおじゃん。四着五着どちらが三着でもよかったんだけどな。しかし、後悔はない。そもそもはロブロイとダイタクの折り返しからと思っていたくらい(ダービーニュース本紙長谷川が二番手評価など、やけに穴人気していたのでやめた)だし。JC、有馬とロブロイを軸に三連単を外した(JCは二着三着が逆)が、手応えはあった。
 俺ははじめ、三連単なんて縁がない馬券だ、と思いこんでいた。しかし、三連単の真の魅力は「百万馬券で家が建つ」というものではなく、「本命サイドで万馬券」だと気が付いた。少なくとも、俺にとっては。人をむりやり本命党と穴党に分けたならば、俺は後者に入っていた。しかしそれは、横浜場外の五百円単位と種銭の不自由から来るものであった。俺は三連単の選択肢を得て、本命党になるかもしれない。その意味で画期的な二〇〇四年冬のシーズンであった。