眞冬日

 雪の降つた翌朝の事でしたから、流石の陸蒸気もどこかでちぢこまつてゐるのでせう。今朝は本當に靜かな朝でした。足許に氣をつけながら石川町の商店街を歩いてゐると、中村川の流冰が時々みしみしと音を立てるのが聽こへます。さういふやうな靜寂の中、「こんなの担いで登れるはずねへぢやねへか!」と、地蔵坂のまへで立ちおうぜうしてゐる馬丁と荷主が言ひ争ひの声が聽こへました。濡地蔵様は何か樹冰のやうに凍りついてゐて、りんりんと淡い燐光のやうなものを放つてゐたのでした。