硫化水銀大仏

http://www.tv-asahi.co.jp/earth/midokoro/2006/20060226/index.html
 こないだの日曜日、普段はまったく興味がない『素敵な宇宙船地球号』みたいな番組(というかそのもの)を見ました。お題が水銀で、平城京遷都の話が出てきたからです。このあたりの時代で水銀というと、私が思わず食いつくのは弘法大師のせいでしょう。
 なんでも、奈良の大仏に金メッキを施した際に出た硫化水銀のせいで、平城京を放棄せざるをえなかったのではないかという説があるというのです。小さな仏像にアマルガムを塗りつけて、当時の技法を再現していました。もし本当なら、いにしえの大公害とでも言えましょうか。しかし、仏のせいで人々が苦しんだとあっては皮肉な話ではありませんか。
 一方で、水銀は消毒作用があるという。なんと、あの赤チンがそうだったのですね。赤チンの原材料マーキュロクロムは有機水銀化合物(http://zokugo-dict.com/01a/akachin.htm)。私がまだ子どものころ、赤チンはまだ現役だったものです。私は痛さに弱い泣き虫小僧だったのですが、はじめのころ赤チンが大の苦手でした。擦り傷にあの真っ赤な液体を塗布すると、さらに血が出てきたように思い、その空想の痛みにもっと泣きわめいたものです。しかし、しばらく経つとどういうわけか、赤チン大好き小僧になったのも不思議な話。あの毒々しい赤さが、逆にものすごい効果があるように思えて、膝小僧やそこらに塗りまくるようになったのです。が、そうなった途端に薬箱から赤チンの姿が消えるのも不思議な話。子ども心に理解したのは「赤チンは毒らしい。これからはマキロンを使わなくてはならない」というもの。実際には製造過程の問題で、それ自体は毒ではないようですが、私の中で赤チンは痛みの象徴から秘薬、秘薬から毒へと転じた、やはり不思議な薬だったと言えます。
 さて、空海の話。これは松岡正剛の『空海の夢』の「18.和光同塵」(id:goldhead:20050816#p3)に出てきた話。

丹生川に含まれている鉱物は硫化水銀であった。「ウ(丹・丹生)」とはその硫化水銀の朱色のことを言う。空海紀伊国の境の大河の岸辺で一泊したおりに出現した山人の名が「丹生明神」であると知った瞬間に、空海はこの山に流れる水の性質を了解できたに違いない。

古代中国においては、ニウは少量を整えてこれを服用すればかえって不老長寿を保証するものと考えられていた。それが神仙タオイズムの錬丹術というものである。
(中略)
「丹」はまた今日なお“仁丹”などの名称としてひそかに錬丹術時代の効力を伝えてくれている。

 丹生川は高野山を流れる川です。空海がいかにして高野を押さえたか。そして、空海における神仙タオイズム。あるいは、空海が影響を受けたという、山岳修行僧、雑密の影響。そういえば、そういった修験者は、山相水脈に通じた古代の地質学者あるいは科学者だったというような話も出てきましたね。そして、空海の没後にその威名を広めるのに一役買ったというのちの修験者たち。彼らも水銀の要所を押さえていたとかいう話があったように思われます。
 とまあ、そんな感じで平城京遷都とは直接関わりないのですが(空海入唐前の若き日に平城京長岡京の遷都が行われているので、時代的に無縁ではないですが)、化学物質から歴史を眺めてみるというのも興味深いことのように思われます。そこからさらに伝奇要素を加えちゃったりしたら、それはもうつまらないはずがないよな、とか思う次第なのでありました。