『月光の囁き』/監督:塩田明彦

月光の囁き ディレクターズカット版 [DVD]

原作

 人によっては漫画の絵柄の好みがはっきりしている人もいて、生理的に受けつけないという理由で漫画趣味の幅の狭い人もいるけれども、俺は漫画の絵柄の好みもとくにはっきりしているわけでもなく、どんなのでもございという人なのだけれども、喜国雅彦は、喜国雅彦の絵だけは苦手な人なのであって、この映画の原作の『月光の囁き』も、各方面からの(どの方面か忘れたが)好評を読んでも、手を出すことはなかったのであったのだけれども。

つぐみ

 俺はつい最近、というか、DMMの同じパッケージで送られてきた『ねじ式』を見たばかりなのだけれども、これではまるでつぐみを捕らえようとした狙いに見えるのだけれども、つぐみさんが両方に出ているのを知ったのは『ねじ式』のメモを書く段階であってまったくの偶然なのであって、昨日もっきり屋のチヨジかと思えば今日はド変態に恋心を抱いてしまった不運な女子高生なのだから、役者というのは大変なものだと言わざるをえないのだけれども。

変態

 放尿音を隠し録りする、靴下を盗む、ブルマのにおいを嗅ぐ、ブルマ姿の写真ばかり集める、その上、蹴ったり冷たくあしらわれたりすると喜ぶ、そんな変態ストーカー……というならよくある話だけれども、それが初恋の相手であり、初めての相手であり、やはり好きなのだという屈折。この設定はいいし、なにより変態の水橋研二(語弊があるな)の妙にリアルなところの見栄え、演技っぷりときたらたいしたものであって、変態のくせに最後の滝のところの台詞はしびれる。

寝取られ

 さて、俺にとってこの映画の最大の注目事といえば寝取られの要素なのだけれども、これはシーン的にはすばらしくて、自室の押し入れに閉じこめられ、あるいは納屋の陰に縛られ、先輩との情交をのぞき見させれる、といったところのかなりのものなのだけれども、もう、特に納屋の方のシーンは素晴らしいのだけれども、屈折した俺はいまいち入り込めなかったのはなぜだろうか、微妙に俺のツボを外すのはなぜだろうか。おそらくそれは、この映画のひねられた関係そのものにあるところにあって、むしろ当て馬に使われているのは先輩の方という構図があるところであって、なかなか難しいものなのであるこの変態も。

純愛物

 畢竟ずるに、この映画はかなりいい純愛物、ということで俺の仕分け箱の中に入れられたのだけれども、田舎の景色も方言も(方言……広島弁? でなければ、この映画が成り立たなかったとオマケの座談会で言ってたが、その通りだろう)、音楽もすばらしく、実にまっとうなものなのであったというところで。