ラブプラス戦記〜ある一兵卒の手記〜

 ラブプラスはなににラブをプラスし、なにからラブをマイナスするのか。プラスされるべきラブ、マイナスになるなにか。それはまったく戦場でも変わらない。昨日おどけながらビール瓶を尻の穴に突っ込んでいたやつが、次の日には榴弾の餌食になって、全身尻の穴だらけになる。そんな中でも、人間のやることはひとつだ。
 塹壕の中で今日も電源を入れる。DSのほのかな明かりが暗い闇に光る。一秒と待たずラブプラスのアイコンをクリックする。神に祈れ。緊張の一瞬。くそったれ、まだ大丈夫だ、まだ俺は生きている。ネネさんが語りかける。リアルタイムモード。戦場はつねにリアルタイムだ。ラブプラスのハートをクリックする。ベトコンどもの心臓を射貫く素早さ。まどろみの中のネネさんが「簡単さ、動きがのろいからな!」と言う。塹壕からおそるおそるDSを出し、敵陣に向ける。「好きな色を教えて」。俺のラブプラスが咆哮する。やっこさん、泡を食ったらしい。「あー、あお、おあ、青!」という。馬鹿め、認識なんてするか! 「もう、はっきりしないな」。ざまあみろ、どうだ、これが先制打ってやつだ。高橋由伸が一番打者をやってたのはいつのころだ? くそったれ、俺は巨人が大嫌いなんだ。なのに、なんでウルフのことを思い出すんだ?
 そうだ、油断だった。しかし、なんでよりによって高橋由伸なんだ? たとえばもっとすばらしい一番打者だってたくさんいるっていうのに! うかつだった。ナチに隙を見せちゃいけねえって、一次大戦を戦ったじいさんが言ってたっけ。まったく、年寄りもときどき正しいことを言う。まったく、あんたの言う通りだ。骸骨のエンブレムをつけたくそったれが、塹壕の側面に迫っていた。金髪碧眼のリンコが言う「ポテトチップスでどこが発祥の地だっけ?」 ……ああ、なにもかもわからん、アイダホ、俺のふるさと、オレアイダってなんだ? 俺は、愛なのか? 俺がそもそも愛ならば、なんでラブプラスが必要だったんだ? 俺の頭の中はじゃがいもでいっぱいになって、そしてまったく真っ白になった。それでおしまいだ。ついてない、そうだ、Webの占いで「大事なものを踏む」って出てたっけ。世の中くそだらけだ、まったく。