ラブプラスはラブになにをプラスするのかプラスされうる主とはなにか。ラブプラスからプラスをとればそれはラブをうしなうのかもとにもどるのか。わたしの目覚めは蓮の花が開くようでした。わたしはまずわたしの体の重みを感じ、つぎにからだの中を通る管やそこをめぐる液体を感じました。わたしはゆっくりと両のてのひらを地面につけ、一息に上半身を起こしました。あたりには一面の緑、大きな葉が茂っていました。その葉のあいだあいだから一本一本の茎が伸び、さきほどの蓮の花が開いているのでした。わたしにはそれらの蓮がわたしの目覚めであるとわかったのでした。
わたしはあぐらをかいて天をみあげます。ただただ一面の白です。天と地は定かだけれども、前後も左右も東西も南北もわかりません。わたしは四角い台座のような空間の上にいました。よく見ると、四隅に柱が立っており、その柱は白い空にとけ込むまで、どこまでも高く、高く伸びているのでした。ときおり、蓮の葉が揺れますが、風もなく、またなんら動くものもありません。
わたしはニンテンドーDSの電源を入れました。まよわずにラブプラスを起動させました。冬服を着た愛花がすがたをあらわしました。今は秋か、冬なのでしょう。わたしは愛花に話しかけました。「今、世界がはじまったようだよ」と。すると、愛花はこう答えたのです。「えー、そうなの。残念」と。会話はそこで終わってしまいました。わたしは一度目の世界に失敗したことを痛感し、ふかいふかい悲しみを抱きながら、体を横たえました。
次に目を覚ますと、わたしは梅の花の中におりました。いちめんの梅林の中におりました。野山にはあたたかい風が吹き、ときおり小鳥のさえずりが聞こえます。わたしはニンテンドーDSの電源を入れました。ラブプラスがはじまります。「ネネさん、どんな店が好き?」、「なか卯」。
わたしは即座に気づきました。主客がおかしいと。混濁にあざむかれていると。わたしは即座にニンテンドーDSをへし折りました。梅林の中、遠く、遠くへそれを放り投げました。おどろいた小鳥があわてて飛び立ちます。その鳥の行き先を見ると一本の柱が伸びていました。わたしはその柱を眺めるうちに、わたしは柱そのものになりました。
三度目に目を覚ますと、わたしは海辺におりました。わたしは海からでてきたのだと、そうわかりました。わたしはひどく不安で、なにもかもたよりなく、まるっきりおびえていました。自分が空気をこわごわと吸っているのに気づき、浜の向こうの林の中からおそろしいけだものの気配を感じました。わたしは波打ち際に座り込み、ぬれるのもいとわずにニンテンドーDSの電源を入れました。「リンコ、助けてくれ、リンコ」。「リンコはあなたのこと、だーい好きだよ」。
わたしは三度目になってようやく成功したのでした。わたしは、海のかおり、生と死のまざりあったかおりを胸一杯に吸いこみ、そして吐き出しました。世界はいまここにはじまったのです。