「え、そうなの?」

 こないだ、正月に祖母の家に集まったときのこと。その帰り際なんだけれども、介護用ベッドに横たわった祖母と別れの挨拶をする。祖母はいろいろの薬も飲んでいるし、集まった子供たちや孫たちをどこまで認識しているのかよくわからないところもある。しかし、一方ですっかり理解しているような瞬間もあって、そんなところを行ったり来たりしている。去年と今年を比べても、今年の方がよくなっているようなところもある。俺が自転車で帰るというと、気をつけて帰るように言ってくれて、握手する。やわらかく、あたたかい手だ。いつからか、俺は祖母とお別れするときに手を握ることにしている。
 手を握りながら、祖母が「早く葬式を出すようなことには……」と言う。俺は、「大丈夫、夜だし、安全運転するから」と答える。すると、そばにいた俺の母が、「いやね、おばあちゃん自身のことよ」と言う。祖母の反応を見るに、どうもそのようだ。俺は内心、「え、そうなの?」と思う。
 俺のそのときの「え、そうなの?」に含まれる残酷さというのを、事細かには説明する気になれない。ただ、なんとか年を越せて、とりあえず未払いだった給料も支払われ、ここのところずいぶん精神状態がよくなっているのに、このことがチクチクと胸にひっかかっていて、そのことをこうやって記録する。記録してどうなるものでもない。俺が「え、そうなの?」と思った瞬間に、それは起こり、終わってしまい、二度と書き換えられることはない。

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