おせち料理2。 pic.twitter.com/7Seb6hDxa3
— 黄金頭 (@goldhead) 2022年1月1日
1月1日の夜にメールが届いた。差出人は、この日記の読者である。ある事情のある22歳の青年がある事情によってある関内のネットカフェにいて、できたら会ってもらえないかという内容だった。事情のない人間はいない。関内にネットカフェはある。1月2日か、1月3日に。
おれは「ええー!」となった。こんなお誘いは初めてだ。それに、おれのあたまにはある文字列が浮かんだ。
はてな→オフ会→事件
どうしたものだろうか。しかるべき筋にも相談した結果、会ってみようということにした。今年のおれはやるのだ。やるなら今しかねえ。今年はやるんだ。だったら1月2日から見知らぬ人に会うということも、あっていいだろう。なにかが変わるかもしれない。
おれは念のため、防刃のことを考えて革のコートを着込んででかけた。靴はごついティンバーだ。
Persicaria capitata
暗いトンネルを向け、待ち合わせ場所である山下公園へ向かう。
このカバは落書きではない。
ゴーサインは出た。ゴーイングコンサーン。馬の名前ではない。
ゴクラクチョウカ。Strelitzia sp.
なにもん? 朱雀門。
え、この時期に?
山下公園来てしまったー。
鬼殺し浮いてしまったー。
2022年1月2日の横浜はよく晴れていました。……ていうか、おれはこれから、どんな人に会って、なんの話をすればいいのだろう?
三が日は旗日なのか、それともいつもあったっけ? からかいのメールでもいいかな。
待ち合わせは赤い靴を履いた女の子像の前である。おれは最初にここに来てしまった。考えてみろ、赤い靴を履いた女の子はこんなに迫力があってはならない。異人さんがたじろぐからだ。
いいじいさんも。頭の上のスズメも。
このバラは葉色がいいな。
さて、赤い靴の娘、いた。ここだ。まだ、ちょっと早い。先方が伝えてきた、その人の姿らしき人は見当たらない。ベンチに座る。
すると、「あの、おうごんとうさんですか?」と、声をかけられた。立っていたのは、スラッとした若者であった。なぜばれた。おれの服装などは伝えていない。「え、なんでわかりました?」、「写真撮っていらしたのと、ピアスと……」。
黄金頭さんの見分け方→写真を撮っている、ピアスを3つつけている、変な羊革のコートを着ている、金色に染めた頭(今は黒髪)、なんらかのオーラ。
さて、親と子ほど年の離れた男二人である。なにを話そうか。おれにはなにもわからない。おれにはなにか人生を語ることができない。いや、いきなり人生を語るのか。わけがわからないまま、ガンダムの方に歩いた。ガンダムならなんとかしてくれる。おれはガンダムを頼った。……しかし。
「ガンダムは世代的にぜんぜん違いますよね?」
「はい、そうです。でも、この間、一話と二話を見てみたのですが、一話でミライさんがとくに意味もなくパンチラしたのです。なんの感情もこもっていない、ただ白いだけの……」
「歩いていているだけでもなんですから、中華街でお昼でもどうですか?」
ということにした。日差しはあるが、真冬でもある。中華街に入る。
「中華街は、埋め立ての時期がほかより早かったから、碁盤の目の中に斜めに入っていて、地元の人間でも迷いやすいのですよ」
地元案内人になるおれ。
あてはないので、すぐそこにある台湾料理屋に入った。写真はない。ルーローハンセットを頼んだ。純粋数学はこの世に応用されるのか。宇宙際タイヒミュラー理論とはいかなるものなのか。ストライクウィッチーズの絵をアマゾン奥地の先住民族に見せたら、これを人間を描いたものと認識するのだろうか、いやらしいものと思うのだろうか。そのようなことを話したような気がする。
ところで、「イチゴ飴」なるものが「中華街名物」になっていた。おれはコロナなどもあって2年くらい中華街には来ていなかったが、その間にできていた。名物はいきなりできる。
中華街……天津甘栗の圧が減っていたように思った。あいかわらず世界チャンピオンの店と食べ放題の店は多い。
「中華街より伊勢佐木モールとか……ちょっと外れたほうに、中国人向けみたいな本物の中華料理店が増えているんですよ」
「あ、自分、昨日、そういう店に行ったんです。どうせなら本格的なのと思いまして。けど、あの街、一本裏道に行くと怖いですよね……」
勇気あるな。
というか、このランチの支払い、とうぜんおれが払うつもりだったが、コートを着ているすきに先に「会計別々に」とされてしまい、おれの人生初の「年下の人間にメシをおごる」という機会が奪われた。青年の振る舞いはスマートだった。おれが不慣れだった。とはいえ、「年下なので、メシをおごってください」という要望は受け付けません。
青年は埋められたコーヒー缶を見つけた。ここにはなにか変わったものがあるという。なにか不思議なアンテナを持っているようだ。
なにか言いたいらしいがなにが書かれているかわからない落書き。
言いたいことがしっかり伝わってくる落書き。
何と書いてあるかわかるが、意味のわからない落書き。
なぜか、寿町ツアー。おれもとくに用がなければ(用もないのだが)あえて通ることはないが、二人連れの心強さもあって、歩いた。青年は違法ゴミ出しに興味を持ったりしていた。
かつて「日本三大ドヤ街」に数えられた寿町。今は労働者の街ではない。年老いた人たちの街だ。
ビルの壁にゲバラの肖像。そして、越年闘争。写真はない。寿町公園にいろいろな団体が支援の戦いをしている。そこにアナーキーはあるのか。ありそうだ。栗原康の話などする。
「やっぱり革命ですかね、ブランキですよ」
「ぼくはまだ『天体による永遠』しか読んでいないのですが、革命家が牢獄で、これはあくまで科学論文だって言い張っているところがすごいというか」
「お酒は飲むんですか?」
「一人飲みが多いです」
「おれはもうだめだけど、一人飲みはやめたほうがいい。きみはまだ若いから引き返せます」
「ドヤの仕事といっても、あるていど技能がないと仕事はないらしいですね。ちょっとした道具と、技能。いきなり手ぶらでなにも知らない若者が来ても、仕事ないみたいな体験レポ読んだことありますよ」
「ええ、そうなんですか。自分は最近、ドヤの日雇いをしているVtuberの動画を見ているんですが、『軽作業』はきまって『重作業』だとか……」
「そんなVtuberがいるのか」
「事故なのか、凍死なのか……」
「アンパンマングミがあります」
「事故ですかね」
「『龍が如く』ってゲームありますよね。あれの何作目かの舞台がここらへんで、よく特徴を捉えていて」
「それにしてもすごい自転車ですね」
自転車……。
「ロダンです」
「本物ですか」
「本物でしょう」
「触れるんですね。でも、芸術はわからないですね」
「ええ」
「このオカメザクラの寄贈札(注:上の写真ではありません)、『属』が『族』になっている。『寄贈』の字にも平体かける必要ないのに」
「黄金頭さんの会社に頼めばこんなことはないのですね」
「そのはずです。ただ、自分も単語ばかり知っていて、実際の植物を見て同定することなんてできません。このシャリンバイのvar. umbellataとかも、ウンベラータがラテン語で傘みたいな意味と知っていますが、実物を見てもわかりません。しかし、一般の人に学名がわかるかというとどうか。ただ、英名といっても英語圏にない樹木だったり、アメリカとイギリスとオーストラリアで違う呼び名だったらどうしようなんて話もあります」
「ウンベラータ、アンブレラですか。自分は学名がついていたほうがいいと思います。そのために、世界共通のものがあるのですから」
「最近、カラスではなく大型のインコが東京に繁殖しつつあるって記事を読みましたよ。最初はなんかコンテナから逃げたとか」
「東京で見たことあるかもしれません。すごく鮮やかな色で。けれど、カラスはかわいいですよね」
「人間をなめているところがいいんですよ」
さて、このあたりでいったん写真は終わる。カメラのバッテリーが切れたからだ。古いカメラだからだ。
われわれは伊勢佐木モールに向かった。青年が昨夜食べた店は「小城」だということがわかった。よくこんなコアな店に一人で入れるな、と思った。おれにはそういった度胸に欠けているところがある。おおいに。
r.gnavi.co.jp
そして、ドンキの水槽まで行って、引き返して、別れた。
「小説は、書かないのですか?」
「書け、書けという人はいるのですが、むずかしいのです。たまに寄稿していますよね?」
「ああ、ビジネスパーソン向けの」
「お誘いをうけたとき、自分はビジネスの話なんて書けないと断ったのですが、普段のような内容でいいと。そういうわけで、内容は自由なのですが、文字数が4,000~5,000字ということで、これがかなりつらいんですよ」
「自分としては、文章の練習のために、毎日のように日記を書いているのですが、かえってブログの文字量に最適化してきてしまったような感じがあって」
「マラソンの練習のために100メートルダッシュを繰り返してしまっているのかもしれません」
「でも、本、楽しみにしています」
「いや、それはもうお約束できませんが。でも、やるなら今しかねえという感じで」
「書けたらいいと思います」
「今日は誘ってもらってありがとうございました。なんだか不思議な時間でした」
「もしも今度会うことがあったら、もうちょっと実のある話をしましょう。あ、でも、ないんですよ、話のタネ、おれ、中身ないので。でも、よかったらまたメールでも送ってください」
さようなら、若き人。