11月のある日、野毛山動物園に行くのこと

野毛山動物園

 野毛山動物園に行った。野毛山動物園というのは野毛の山にある動物園である。入園料無料である。不思議と、俺はこの動物園に来たことがなかったのだった。近くまで来ても、なかに入らなかった。とくに理由はなかった。ちなみに、よこはま動物園ズーラシアは数えきれぬほど訪れた。最近は訪れていない。いろいろあるのだ。
 

 野毛山動物園の入口である。入口付近に、ズーラシアと同じところからトピアリーが寄贈され、飾られていたのである。野毛山動物園は、無料の動物園である。経営は、苦しい。ネーミングライツ販売という話もあり、実際に売りに出されたが、売れていない。日産スタジアムですら、あのごたごたである。アメリカ山にはテナントが入らない。不景気だ。野毛山もつらい。この日は、入園者アンケートなども行われていた。俺は「有料化してもいいので、存続を願います」というようなことを書いたような気がする。一口五千円のアニマルペアレントでどこまで、というところもあるだろう。今、ここの運営は市の緑の協会が行っているが、PFIとしての受託である。PFIの是非もあろう。まあ、このあたりのことは、あまりいろいろ書いたところで、俺にもよくわからないところもあるが、知っているところもちょっとあって、いろいろあるのだ。


 ちなみに、野毛坂を渡った反対側に見晴らし広場があるというので行ってみたら、工事中だった。道すがら、柵に囲まれたこのような建築物がある。おそらく、中には中田前市長が幽閉されており、日夜Y150の反省をしているのではないかと思うのだが、詳細はわからなかった。

鳥たち





 入口近くのバードケージ。コンドルは、すこし離れたところにいる。動物解説板に「スズメ」とあって、オシドリたちのえさを食べるために中に入ってきます」などとあるのだからおかしい。じっさい、器用に金網をくぐるのを見た。
 なお、爬虫類館には「ゴキブリがいるけれども殺虫剤が使えず水でながすだけだからご了解ください」というような貼り紙があった。また、いつかべつに聞いたところでは、動物園にはかなりの数のネズミが棲みついているそうである。こちらも動物が近くにいるので殺鼠剤など使用できないのであろう。

レッサーパンダ



 レッサーパンダである。ズーラシアのあいつはなかなか目にすることができないレアキャラであるが、こちらはよく見える。こんなにレッサーパンダを見たのははじめてかもしれない。ただ、レッサーパンダ骨格標本はどこかで見たことがある。指にあたる部分が、このもふもふの見た目以上に長く、なるほど器用に木に登り、葉をむしって食う。

サルたち





 この日かなりの時間を費やしてみていたのが、この写真の上から二番目、「フサオマキザル」である。

 ウィキペディアに、その知性と道具使用について多く書かれているように、かしこそうな連中である。この日は、小猿が器用に樹の皮を剥き、食うのを見ていた。なるほど、枝をどうこうしようとするところは、道具にも見えた。なかなか飽きない。飽きないで見てた。すると、その小猿の写真がなく、奥の方にいた「なんだあれ、オッサンくさい。ああいう顔のオッサンいる」と言いながら撮ったやつしか残っていないのである。人間も道具を使いこなしているといえるのかどうかあやしい。

カメ、ワニ、ヘビその他






 暖かいというより暑いくらいの爬虫類館である。ご禁制の密輸カメなどが展示されているのである。ここでも多くの時間を過ごした。一番下に写っている「エミスムツアシガメ」である。べつに木の枝を器用に剥いたりはしない。この一匹が、水だまりでいちゃついている仲間の三匹の方を気にしつつ、左手の坂を下って水辺に行くと思ったら、急に逸れて上に行っただけの話である。ただ、この間が異様に長い。カメの時間だ。ときどき止まっては、なにか考えているようでもある。俺はとくに何も考えずにそれを見ていたのである。

le loi des animaux




 ライオンやトラ、クマの類なども見た。また、高齢ラクダの「つがるさん」も見た。ラクダなのに「つがる」という名前なのがいいと思う。

ペンギンたちの自主公演



「整列ー!」

「とびこめー!」

「押すなよ、絶対に押すなよ?」

「うあー」

 ペンギンたちである。最初は一羽の雛らしき個体を除いて、みな思い思いに泳いでいたのである。ペンギンは人気がある。ペンギン虐待女以外のほとんどの人間には愛される存在である。客もたくさんいる。
 すると、ぞろぞろと自らあがって、整列するではないか。もちろん、芸を指揮する人間などはいない。ここは八景島シーパラダイスではないのである。そして、三羽が同時に飛び込んでスーッと潜水を始めたのだから、いよいよこれはショーに見えてしかたない。そしてさらに一羽が誘いを受けるように水の中に。
 さて、最後に残った一羽である。こいつが、やけにコンクリートの陸のぎりぎりに立っているのである。今にも滑り落ちそうだ。と、その瞬間、ずるっと滑ってバシャバシャいいながら水に落ちたではないか。これには笑いが起きた。俺も笑った。
 ……と、なんということだ、このペンギンたちは自分たちでショーを演出したとでもいうのか。その後、「あのペンギンたちは八景島かどこかの退役ペンギンであって、人前ではエンターテイナーの魂に火がつくのだ」とか「経営が苦しいから、彼らもアピールをして支えようとしているのだ」とか話し合ったが結論は出なかった。
 

キリン





 キリンである。キリンの前に来た途端、一頭のキリンが放尿を始めたのである。すると、その後ろにいたもう一頭が、当たり前のようにそこに首を突っ込み、ごくごく飲み始めたのである。終わったあとも、ぺろぺろしはじめたのである。えらいところに来てしまった、などと思う。
 その後、キリンは太い舌を植え込みに出し入れしてなにか食べようとしているように見えたり、高い木の枝を気にして、なにか食べようとしているように見えたりしたのである。

たくましい鳥たち




 園内を、この白いのとか、クジャクとかがうろうろしていたのでおもしろかった。たまに園内放送で「餌はやらないでください」などと入るが、ほぼ放任である。むろん、逃げ出さない工夫などは十分にしているのだろう。ただ、俺は、これが逃げ出して、勝手に繁殖して、明け方の野毛のゴミを漁ったりしている姿を夢想する。クジャクや、コンドルが、そこらにいたら、とても楽しいじゃないか。無責任な、妄想である。ただ、人の気配に臆さず、おちょくってくるガキに翼を広げて威嚇するようすを見るに、彼らにカラスやハトと渡り合えるたくましさはあるように思える。

そして、野毛へ







 シロクマのいないシロクマ舍で、映像祭の一環であるなにかをやっていたが、なにせ不親切で突き放したような、現代アートフェス独特の空気をかもし出しており、また映像アートはよくわからないので、よくわからんし、つまらんと思ったまでである。
 夕暮れ、山を下りて野毛へ。ここで、一杯ひっかけたりはしないのである。モスバーガーでコーヒーを飲んで、帰った。それだけの話である。おしまい。

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