追憶の川島なお美

www.sponichi.co.jp

 

川島なお美が死んだという。その一報を知ったときも、頭のなかにまず浮かんだ言葉は「だん吉・なお美のおまけコーナー」だった。おれにとって川島なお美は「お笑いマンガ道場」の川島なお美であり続けた。

おれが「お笑いマンガ道場」を見ていたのは、正確には何歳のころだったろう? 人生においてわりと記憶の初期に属するとはいえる。そんなガキのおれが、「お笑いマンガ道場」の川島なお美を見るたびに思っていたことがある。

「なんでこんな美人がこんな番組に出ているのだろう?」

これである。言っておくが、おれは好きで「お笑いマンガ道場」を見ていた。富永一朗鈴木義司車だん吉も好きだった。とはいえ、川島なお美は、あの番組の中では異質に美しすぎた。本来の「役不足」という言葉が適当だろうか。子供心に不思議に思ったのだ。もっと有名とされているような、ゴールデンタイムに出てくるアイドルや女優なんかより、ずっときれいな川島なお美が、なんで「お笑いマンガ道場」なのだろうか? と。彼女にはもっとしかるべき舞台が用意されていていいんじゃないのか。こんなにきれいなのだから、と。

とはいえ、おれは熱心な川島なお美ファンになったわけじゃなかった。実のところ、「お笑いマンガ道場」よりあとの川島なお美のことはよく知らない。消えていた期間があったのかもわからないし、なぜ突如としてワインの人になったのかもわからなかった。ただ、わからないままでいいとも思った。ワインの人になった川島なお美は、おれの中の川島なお美ではなかったし、いくらセクシー路線に走ろうとも、さして興味をひかなかったからだ。ただ、名前を聞くたびに「だん吉・なお美のおまけコーナー」という言葉が頭をよぎるだけだった。

彼女は、小さなおれが思った「しかるべき舞台」に立ったのだろうか。小さくない訃報を見るにそうなのかもしれない。そうであればいいとは思う。

追憶の川島なお美。ワイン色のドレスではなく、「お笑いマンガ道場」の野暮ったいトレーナー姿の川島なお美。思えば、テレビの中の女性にはじめて魅力を感じたのは、彼女だったのだ。そしておれはその記憶をそのままにしておきたかった。そんなところだろう。