働けないものが食ったり飲んだりしてはならない

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おれはいま、そうとうに働けない。おれの苦手とする分野(得意な分野というものも存在しないが)の仕事を二重、三重に溜め込んでしまって、なにをどうしていいのかさっぱりわからない。そのうえ、双極性障害躁鬱病の鬱の方が脳みそを固めてしまって、身体を萎縮させて、思うように動けない。

おれは働けない。おれが働けないのを見て、上司が手助けしてくれる。おれの病気をよく知っている。申し訳ない。口には出さないが、おれの様子から察したのだろう。申し訳ない。

おれはここで、おれの病気を理由にしていいはずがない。病気はどこにあるのか。社会にあるわけでも、会社にあるわけでも、上司にあるわけでもない。おれの中にある。おれ固有のものである。おれが責任を取らなくてはならない。おれはだれにも迷惑をかけたくないので、自決しなくてはならない。

だれかに処刑されるのとは違う。後悔も、不服もなく、おれはおれを進んで処断しなくてはならない。おれの病気はおれの中にあって他のどこにもない。おれは他人に迷惑をかけたくはない。堂々と自裁しなくてはならない。そうあるべきだ。

それなのに、おれは死ぬのが怖くてものを食べたり、飲んだりしている。その上、自分が楽になりたいがために薬までのんでいる。現実から逃避するために酒を飲まない日はない。おれなどは、苦しみの上に死ななくてはならないというのに。この卑劣さは非難に値いする。

おれの病気はおれのものであって誰のものでもない。おれは人に迷惑をかけてまで生きていたいという執着もない。おれは死ぬのが怖い。……いや、死ぬに至る過程の苦痛を怖れている。おれは400m先の狙撃手に脳みそを撃ち抜かれてもいいし、ダンプカーに突っ込まれて死んでもいい。けれど、自分でそのようなことをするのが怖い。軟弱者。無能で働けず、己の死に踏み切れない。それでも、おれは、白昼堂々、なんの後悔もなく、納得して死ななければいけない。