百合映画300本総まくり ふぢのやまい編著『「百合映画」完全ガイド』を読む

百合映画とおれ、おれと百合映画。

その記憶は古い。

自分の部屋に小さな14型のブラウン管テレビが与えられたころのこと。おれは深夜に「なにかエロい番組はやっていないかな?」チャンネルをまわしていた。中学生のおれはエロいことしか頭になかったといってよい。

そこで、偶然出会った映画があった。『櫻の園』(1990)、これである。始まってから少し経ったくらいだったろうか、途中からだった。だが、おれはこの映画に見入った。もちろん、このタイトルも、原作漫画もしらない。しらないけれど、目が離せなかった。エロいことしか頭にないはずの男子中学生に、なにかべつの感情が芽生えた。そのなにか、むずむずするような、どきどきするような心持ち。いま、この現代の言葉でいえば、「尊い」が近いだろうか。よくわからない。よくわからないが、おれが生涯で見た映画で5作品選べと言われたら、必ず入る作品となった。その時点でそうなったし、おっさんになってしまった今でもそうなっている。

そうだ、おれはもうおっさんになってしまった。かつて美少年であったおれが百合というものに没入するのとは話が違う。おれのようなものが立ち入っていいのかどうかわからない。それでも、おれはかつてBL本にも夢中になったし、多趣味な人間であることにかわりはない。ずっと好きななにかはある。そのなにかの一つが『櫻の園』(1990)であり、広くは百合というジャンルになる。文句があるなら文句を言え。知った話か。

 

して、「百合映画」完全ガイドである。はてなブックマークの「関心ワード」に設定している「百合」で知った。迷わず買うことにした。なにせ、映画300本である。おれが今まであらゆるジャンルにおいて300本映画を観たかどうかわからない。それが、百合映画だけで300本である。なにそれ、夢のよう。

 私たちにとって、「百合」とは約束されたものではなくむしろ出発点だ。なんの変哲もなかった写真の中に霊を見つけてしまった途端に写真全体が「心霊写真」になってしまうときのような、それを見出してしまった瞬間を核として作品全体が再構築されていくような不気味な何かだ。それは同時に制度化された「百合」を不断に再構築し続けるチャンスとしても機能するだろう。知っている「百合」とは別物であるにもかかわらず、それが「百合」であると思ってしまった瞬間、確かに捉えていたはずの「百合」が軋みながら変形する。中心と周縁が存在することが問題なのではなく、制度として硬直してしまうことが問題なのだ。つぶやくことを恐れてはならない。

「序文」

……で、おまえは何を言っているんだ。なんかまるで「ユリイカ」とか「現代思想」に書いてある文章みたいじゃないか。なんだ? ともかく百合の概念を再構築して拡張、変革させていくことを恐れるなということか? 高卒のおれにはよくわからない。というか、映画というものを見て「イラン人女性が出した塩辛いヨーグルトを、甘いはずだと思っていた主人公が口に入れた瞬間吐き出す。しかし実は「咄嗟に吐き出され」、拒絶されているのは彼女たちの方なのである。」というような文は逆立ちしても書けない。おれは小説についても映画についても何についても、そういった比喩や思想を読み取る知能がない。これはざっくりと脳の機能が削られているようなものである。もしおれがその映画を観てもおそらく「塩辛いヨーグルトというものもあるのか。ビリヤニについてくるライタみたいなものか」と思うだけだろう。

とはいえ、この本は300本総まくりなのである。そんなにむつかしい映画論を長々と読まされることはない。むしろ、300本総まくりのスピード感に乗れるだけ乗ったほうがいい。とてもいい。「なんだこれ、おもしろそう」だと思ったら、どこか東欧の映画で日本語化されていないと知っても(どんなメディアで観られるのか、あるいは観られないのかという情報は整理されていてたいへんわかりやすい)、じゃあ次、次、と読んでいける。まったく知らない映画人の名前が出てきたって、ゆけゆけ二度目の処女だ。すると、なかには自分が観たことのある映画なんかも出てきて、「わかってるじゃねえの」と謎の上から目線になったりもする。

で、もうこの本が欲しくなった人は欲しくなったろうし、おれの役目は終りだ。が、せっかくなのでこの本に出てきた「おれの観たことのある映画」という、あまり諸君に意義のないリストを以下に並べる。ちなみに、「観たい映画」と「観たことのある映画」に付箋を貼っていたら、ずいぶんビラビラになってしまった。本で紹介されている順につらつらと。

 

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本書では『セーラー服 百合族』となっているが、たぶん同じ作品だろう。舞台が江ノ島あたりだからといって漫画『青い花』を想起しているあたり、おれは本書のすばらしい表紙を描いている志村貴子先生が好きなのは明白である。本書で次に紹介されている、金子修介監督による続編も観てみたい。

 

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マイベスト映画5作のうちの1つ……のつもりでいたが、2008年のおれは取捨に迷っているらしい。これはまた観なくてはいけないような気がする。もちろん、萩尾望都は大好きだ。

 

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2009年のおれは心のベスト5どころかベスト3と言っている。よかった。

 

 

 感想をブログでは見つけられなかった。ただ、『マルホランド・ドライブ』みてえな、という表現を何回も使っているので、それだけ印象深かった。また観ようかな。

 

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この感想を読んで、つくづくおれは人の顔が覚えられないのだな、と思った。

 

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なんで「……」ばかりなのか。セリーヌでも読んでいたのか(たぶんそうだろう)。

 

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ジャック&ベティに貼ってあったポスターに一目惚れした作品。おれはペ・ドゥナの熱烈なファンになった。

 

 

映画ドラえもん のび太と鉄人兵団
 

これは新しいほうかな? ともかく本書は、「邦画」、「外国映画」、「アニメ」と分かれていて、アニメの最初に出てきたのが「鉄人兵団」なのである。リリルとしずかちゃん。幼い頃に大好きだった作品だが、そんな見方があったとは。

 

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本書でも傑作と言い切られているが、傑作なのでしかたない。百合とか関係なく、というのはあまりいい言い方ではないし、そもそも百合なのか? というところもあるが、これだけ「みんな観て!」と言いたくなる映画も少ない。

 

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見上げた作品だが、見返してはいないことに気づいた。いま、あらためて観てみようか。

 

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おれにとって百合としては「惜しいが、違う」だったらしい。

 

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「みどりは誰に片思いしているとおもうのだろうか」と本書にはある。おれはそこに踏み込めなかった。思っても良かったし、つぶやいてもよかったのだった。

 

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おれがいまこの映画にタグをつけるとすれば「ラーメンの味が薄い」ということになるだろうか。百合っぽさにも言及があるが、そんなに熱がない。ちなみに「完全ガイド」でもあまり熱がない。

 

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自分で思っていたより大絶賛している。「おれの嗜好からして百合なのもよかった。よいことばかりじゃないか。」とも書いている。なんとなく伊藤計劃も読んだ気になって、時間が経って、それで顧みることなく、それでいいのかと思うが、目の前にはまだしらぬ大量の作品が一生分以上あるのもたしかであって。

 

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たいへんおれこれ好き、らしい。

 

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おれは単体(?)としてのアネモネが好きであって、百合視点というのはあまり考えたことがなかった。

 

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あまりしっかりと観ていないようだ。ただ、ラストシーンがよかったことだけは覚えている。

 

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これは精神崩壊の一作。百合という発想はあまりなかった。で、どのカップリング? ということになるが、本書ではグローリー水領の名があがっている。……というか、『マイマイ新子』にしろ、本作にしろ、「百合映画」というより、単なる傑作を知らしめたいという感じで収録されているのでは? などと訝しんでしまった。

 

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原作はもっといいらしいし、このOVAでは「完全版」と呼べぬらしい。

 

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本書には「彼女たちの冒険を書くにはあまりにも時間が足りない」とあるが、そのとおりだろう。

 

……と、自分なりの百合映画を総まくりしてみたが、どんなもんだろうか。『テルマ&ルイーズ』などの重要な名作観てねえなというところはある。

そして、本書300作に入っていなかった作品をちょっとあげてみる。

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チョイスされてなくて意外、と思った。

 

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ナナチがかわいいので。

 

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おれが愛してやまないすばらしいストライクウィッチーズは百合映画にはくくれない超名作であって、劇場版はそのなかでもとくにすばらしく、このシリーズに百合要素がないといえば嘘となるのだし、ともかくストライクウィッチーズはすばらしい。

 

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南北朝鮮を越えた百合、というにはちょっと無理あるかもしれないが、ペ・ドゥナはクールでかっこいいので。

 

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これのノノとラルクの関係とかもな。

 

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本書では瀬々敬久作品がいくつか取り上げられているが、これはどうだろうか。女相撲世界だ。もっとも、おれの関心はギロチン社の方だったが。

 

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最後に『けいおん!』をそういう目で見てもいいように思う。

 

……と、長くなってしまった。ここまで読んでいるやつもいないだろう。劇場版のないアニメには百合作品がたくさんあるし、さらに森島明子先生やタカハシマコ先生の百合漫画がいかにすばらしいかなどと語りたいところだが、今回はこれにおしまい。それでは。