- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/06/11
- メディア: 文庫
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しかし、それよりおれが気になったのは、「これは手塚治虫のアレではないのか?」ということだ。「手塚治虫のアレ」とはなにか。それは、手塚治虫の死によって未完になった作品のことである。西原理恵子だったと思うが、つい未完作を読んでしまいのたうち回るというアレである。『アドルフに告ぐ』はアレじゃあないのか? のたうち回るのか?
べつに調べりゃわかる話だ。『アドルフに告ぐ』は未完作じゃあなかった。ただ、心の何処かで、ページをめくるたびに「未完で終わるんじゃないんだろうな」という思いがどこかにあった。先に調べたっていいが、変なネタバレは見たくない。作品を心から楽しむには夾雑物といっていい。最終盤は駆け足になって、「やっぱりか?」とかいっとき思うが、それはそれで別の事情のようだから、それはそれでいいとしよう。
して、『アドルフに告ぐ』である。アドルフ・ヒトラー、そして別のアドルフの名を持つ二人の少年。その三人と日本人の峠草平を中心にその複雑に人間関係が絡みあい、戦争の時代が描かれていく。絡み過ぎじゃあないのと言いたくなりもするが、その絡まり具合がなんともいえずいいんだなぁ。あまり緻密とか綿密とか計算され尽くしたとか……そうも言えないような気がするんだけれども(そう言ってもいいような気もするんだけれど)、まあとにかくページをめくるのが止まらない漫画だよ。まあ、あたりまえだよ手塚治虫だもん。
とはいっても、おれは手塚治虫をどれだけ読んだか。『ブッダ』はよくわからないが父方の祖母から買い与えられて小学生のころに読んだ。『火の鳥』、『ブラックジャック』も何冊もあったように思う。そのくらいか。いや、あとは古本でたまにちょこちょこ買ったりはしたが……。ただ、「未完」をおそれていたような部分はあった。なにが未完なんだ。はっきりさせておこう。
うむ、そうか。まあしかし、なんだろう、やっぱり神様は神様だよなあと、久々に長編を読んで思った。やっぱおもしれえもん、あたりまえだけど。エロさ、エグさもあるし、続きを読ませろ、って気にさせてくれるもん。世の中には山ほど「手塚治虫論」とか溢れてると思うけど、それも当たり前なんだろう。その中で『アドルフに告ぐ』がどういう位置づけかなんてのは、あんまり興味ないけど、「手塚治虫のアレ」を避けつつまたなんか読みたいとは思った。おしまい。