嘘の世界を踏み抜いて

 人生相変わらず順調に下降気味の私ですが、知らないあいだに嘘の世界を踏み抜いてしまったのかもしれないな、と思うときもあります。嘘の世界を踏み抜いた先には、貧しさの絶望や憎しみ、嫉妬、嫌な感情のすべてがあるのです。そして、この本当の世界を恨み、やがて無感情へと至り、自裁するしかない本当の世界の現実というものに突き当たるという算段です。

 とはいえ、世の中には嘘の世界の空を見上げてその割れ目からポンとすばらしい本当の世界を覗き見られる人もいるのでしょう。そこには友情や愛情があり、安定した収入の上にある金銭以上の歓びを見つけ、人生を謳歌するのでしょう。

 その差はいったいどこにあるのでしょうか。生まれながらの賢さでしょうか? 身体の頑強さでしょうか? 2月生まれは5月生まれにかなわないのでしょうか? 私には答えるすべがありません。答えを持ちあわせてなんていないのです。

 若い人。すごくすごく若い人。あなたは嘘の世界を踏み抜く人になるのでしょうか。それとも、空の割れ目に栄光の光を見るのでしょうか。べつに私は後者であってほしいと希うすてきな人格なぞ持ちあわせていないのですけれども。ただ、まあ、嘘の世界を踏み抜いて、錆びた五寸釘が足を貫いてしまった人間の戯言なんぞに耳を傾ける必要なんてありません。できたら空を見上げてお歩きなさい。それでダンプカーに轢かれても、私は責任をとりはしませんが。