夢の夢のそのまた夢のなか

他人の見た夢の話というのは概しておもしろくない。したがって以下に書くことはふだん以上におもしろくないことを断っておく。

夢のなかでおれは結跏趺坐を組んでいた。瞑想をするのだ。ところが、異常に眠い。眠ってしまっては無の境地に辿りつけぬと、必死に起きようと頑張る。頑張るが、やはり睡魔に負けてしまう。夢のなかの夢に入り込んでしまう。その夢の夢のなかでおれは「早く目を覚まして座禅に戻らなければならない。しかしその方法がわからない」と焦る。いつの間にか目が覚める。目が覚める。

夢のなかの夢を見た。目が覚めたおれは二つの世界を降りてきた感じがした。夢のなかにも眠りがあり、夢があるのだと思った。映画『インセプション』ではないが、人間の脳のなかには多重の世界がありうるのだと思った。

そう考えているおれは起きているおれだろうか。ひょっとしたら、これは本当のおれの夢かもしれないし、だれかの妄想かもしれない。映画『マトリックス』ではないが、そんな可能性だってある。この両の足で立つこの地面のなんと不確かなことだろう。とはいえ、おれはここにいるという実感になんらかの確信がなければ、このように言葉にすることも不可能だろう。その確信を失ってしまえば、ある種の精神疾患に分類されてしまうことだろう。

ただし、人間には夢の夢が可能だし、その先の夢も可能かもしれない。夢というものは現代の脳科学などで簡単に「ある現象」として片付けられてしまうのかもしれないが、果たしてそうなのだろうか、とも思う。おれは二階に寝て二階から降りてきた。ミューズリーを食い、コーヒーを飲み、歯を磨き、シャワーを浴びて、会社にきた。調子の悪い冷蔵庫のことが気にかかっている。