もうなんというか、ここまでド底辺のドブ臭い映画というのは珍しい。どんなきれいごとも、救世軍も通用しない、地獄の門が開いちゃったような感じ。
『冷たい熱帯魚』、うんうん、『ジョーカー』、うんうん。仲間かもしれないね。でも、なんか、圧倒的にこの映画のダメさ加減、主人公フリッツ・ホンカの腐りっぷりとは質が違う。
実録連続殺人鬼映画だからといって、直接的な残酷シーンというのはない。『ミッドサマー』の方が十倍はグロい。とはいえ、映画全体を覆う雰囲気のダメさ加減、飲み屋「ゴールデングローブ」の鬼底辺っぷりは圧倒的だ。
あ、予告編に出てくる若い金髪の女の子なんて、だいたい予告編に出ているシーンがすべてだから。あとはほとんど、娼婦というか、おばあさん娼婦ばかり出てくるから。
とはいえ、あまり残酷映画が好きでないおれがちょっと見てみようかなって思ったのは、そのバーの雰囲気がなんか悪くないからだ。1970年、ドイツ。「強いやつ」とごくごく飲んでいた透明のスピリッツはなんの酒だろう。
まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく、飲む、やる。これだ。そしておれがさっきからド底辺だのなんだの言ってることを気にする人もいるだろう。社会構造の問題を考えるべきではないのか? 殺人に至るまでのかれの人生やその心理を考えるべきではないのか? これこそ弱者男性と呼ばれるものではないか? 差別的ではないのか?
まあ、そう言われてもいい。でも、できたら本作を堪能したあとに、同じことが言ってもらえるとうれしい。おれが、あるいは世界が『ジョーカー』に感じたような、底辺精神病者による一体感なんてものは、いっさいないからだ。望みは捨てろ。そしてその先に有意義なものなんかなんにもない。空虚な殺人鬼とそれを取り巻くしょうもない世界があるだけだ。以上。
以上、といっておいてなんだけど、フリッツ・ホンカ役の役者はすげえな。容姿も年齢もぶち抜いて演じている。シャーリーズ・セロンの『モンスター』くらいすごい。