帰宅。なにかうっかりして、直帰ではなくスーパーへの道に入ってしまった。そうだ、牛乳が切れていた。だったらスーパー寄るか、と思った。そのわりに切らしている料理酒を買い忘れたのだが。
で、思ったところに目に入ったのが、宝くじ売り場の小屋だった。年末ジャンボ宝くじ。そんなニュースを今朝見たような気がする。そうだ、どうせなら年末ジャンボを買うか。そう思った。そう思って、その小屋に入ると、窓口の向こう側にいるはずの店員さんが、店内の方にいて、なにかのぼりのようなものを片付けているところだった。
「あれ、もう閉店ですか?」
「すみません、30分で締め切りなんです」
「あ、それじゃいいです」
そう言って小屋から出たとき、だ。
「お客さん、ジャンボですか?」
ジャンボだ。
「ええ、そうです」
「ジャンボなら大丈夫です。ロトの方が締切なので」
そう言って、店員さんが入り口から裏口に回ってくれた。店員さんが片付けていたのは、「本日大安吉日」ののぼりだった。
残り物には福がある。
「ジャンボ、連番10枚」
「番号は」
「10番で」
10番は、選べるなかで最後の数字だ。おれは3,000円を支払った。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
大安吉日、残り物には福がある。
おれが生きている世界だ。おれはおれ以外の人間の認識を知らない。この世はおれのものだ。そんなこの世で宝くじというものが売られていて、おれがそれに当選しないということはありえない。
思い出そう。おれがサニーブライアンとシルクライトニングで5万馬券を500円当てた皐月賞のことを。窓口のお姉さんが、マークシートのミスを訂正してくれたから当たったのだ。たしか、ボックス買いの点数オーバーだったと思う。そういうところに、福がある。福、福だ。
宝くじは貧者の税金?
そんなことは言われんでもわかっとる。
お前は大卒か?
お前は大学院卒か?
お前は健常者か?
お前は精神障害者保健福祉手帳を持っているか?
おれは持っている。
おれは高卒だ。
おれに今後、何億円という金を稼ぐ機会はない。
だからおれは貧者の税金を払う。おれは貧者だからだ。おれには太い実家もなければ(それどころか一家離散で実家らしきものもない)、金を稼ぐ才能もない。おれには宝くじしかない。
おれは買った宝くじを、おれの健康福祉入れに入れた。そこには健康保険証、精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療受給者証、お薬手帳などが入っている。いつだったか、おれのかかりつけの精神科医が言ったのだ。
「宝くじの一等に当たれば、病気も治っちゃいますよ」
おれにとって宝くじは、抗精神病薬なのだ。
残り物には福がある。
おれには、当たって、当たって、当たる気しかしないのだぜ。