クリント・イーストウッド次元『クライ・マッチョ』

 

 

おれはだいたいクリント・イーストウッドの監督作品が大好きである。なんでかわからないが、そうなのだから仕方がない。老いてますます盛んだ。

が、主演となるとどうなのか、というところはある。本作では元ロデオのスタープレイヤー、ただし今は落ちぶれた男を演じている。本作について、50年前に主演の話が持ちかけられたが、「まだ若い」と断った。それが、90歳になって、「今なら演じられる」と監督・主演である。スケールが違う。

それにしても、主人公のマイク・マイロは何歳だという設定なのだろうか。いくらイーストウッドとはいえ90歳である。父親から母の元から取り返してくれと頼まれたのは、13歳の少年である。これを親子と偽るにしても無理がある。祖父どころか曽祖父くらいの差がある。

それでも、イーストウッドは馬に乗ってみせるし、演技のすみずみまで見事なものだ。もう、何歳だかわからない領域に入っている。90歳でこれだけ色気ある人間というのは、他に存在するだろうか。

時代も、よくわからない。原作は1970年代。同時代と考えてもいいだろう。だが、なぜかわからないが、現代にも見えてしまう。現代に見えてしまう要素は、なにもないのだが。わざと古く作っている感じもしないし、それでいてメキシコはリアルが過ぎる。メキシコ行ったことないけど。

このあたりはもう、クリント・イーストウッド世界、クリント・イーストウッド次元なのであって、問いかけるほうが間違っているかもしれない。衣装も、美術も、撮影もイーストウッド組の手練れが手掛けていて美しい。美しいニューメキシコ

テキサス男とメキシコ女の間に生まれた暴れん坊の少年も、なんとも見事だ。暴れん坊というわりには、それほどストリート感丸出しでもなく、しかし、それこそがマッチョならざる少年というところであって、よくやっていた。馬にも乗れるようになっていた。すごい。

それに、メキシコの村の飯屋の女主人とか、イケメンだけど間抜けな悪党とか、まあ少ない登場人物もいい感じだ。むろん、真の主役かもしれない闘鶏の「マッチョ」の演技も見逃せない。実際は、歩く用、手に飛び乗る用、襲いかかる用など、11羽だったかな、それぞれ一つの役割を振っていたらしいが。まあ、馬にはいくつかの演技はできても、鶏には無理か。

でも、一つ気になったのは、父親役の牧場主が「いい奴」なのかどうか、どうも判然としない印象を抱いたところにある。メイキングでは役者によって「いい奴」だとわかるみたいなことになっていたけれど、そこだけは引っかかったな。

まあ、言うても、ストーリーは地味だ。ロード・ムービーといっても、それほどいろいろなところを旅するわけでもない。老人と少年がそれぞれになにかを取り戻す話。マッチョとはなにか、そこまでマッチョ論にもならない。静かで、いい映画だ。そしてなによりイーストウッド世界だ。悪いはずがない。

 

以上。