神奈川県民ホール。くるりのライブ・コンサートがあるのでやってきた。いまおれは、ライブ・コンサートと言った。先日ふと、「英語圏でもLiveでも通じるのかな?」と思った。思って、英語に詳しいやつに聞いてみた。AIだが。AIが言うには、「Live gigとかLive concertとかは普通に言うけど、Liveだけだと通じないぜ、ということだった。
今夜はギグか? 違うな、コンサートのほうがあっている。なにせ、座席指定の神奈川県民ホールだ。しかも、弦楽四重奏を引き連れた構成だ。コンサートの感じが強い。
コンサートの感じのくるりと言えば、「Now and 弦」というオーケストラを率いたライブに行った。
そして、くるりの神奈川県民ホールというのにも来たことがあった。忘れていた。神奈川県民ホールといえば、いつだったか松任谷由実のライブを観たことがあって、「ユーミンは日本のレディ・ガガや」と思った覚えがある。
神奈川県民ホールは老朽化で閉館が決まっている。
県民ホールに思い入れのいる県民も少なくない。部活などでも使われるらしい。おれはあまり知らない。
というわけで、以下はセトリのネタバレを含んだ感想になる。
席は二階の右隅の方だった。遠いといえば遠いが、全体が見渡せるといえば見渡せる。スタンディングは「たまたま前に立っていた人の身長」にかなり左右される。おれは小さいので左右される。そういうときは、「後ろの高いところでゆっくり聴きたいな」とか思ったりする。今日がその日だ、といえばそういうことになる。しかしなんだ、やはり県民ホールの古さもあって、席は狭い。それは仕方ない。
して、今日のおれの体調である。なぜおれの体調の話が必要なのか。それは、おれが最後に行ったくるりのライブ、抑うつがひどいときに行ったら、あまりいい体験とは言えなかったからだ。むしろ、悪い思い出というくらいまである。
音楽を奏でるのも人なら、聴く方も人である。いや、音楽は機械も奏でるか。まあいい。166日前のおれは午後2時に出社していた。今日はどうだ。午後2時に出社していた。正直、調子はよくない。普通のときを100とすれば50くらいだ。ただ、166日前は20くらいだった。なので今日は、「スタンディングじゃないから楽しめるんじゃないか」と思った。
思ったが、始まってからしばらくはあまり乗れなかった。やっぱりおれ、今日は調子悪いのかな、とか思った。
……のだけれど、「everybody feels the same」でハッと目がさめたようになった。急に音楽が聴こえてきたみたいな気分だ。そして、ライブではたぶん聴いたことないけど、大好きな「taurus」聴いて、「おお、今日はすごくいいんじゃないか」と、なった。「taurus」の最後、石若駿さんのドラムで終わるところとかすごくかっこよくて(石若さんのドラムはいつでもかっこいいのだけれど)、盛大な拍手をしたくなったくらいだ。いや、したらすぐに次の曲が始まるという構成で、「taurus」に盛大な拍手を送れなかった。だからここで送る。
順不同でよかった曲となると、あれだな、「心の中の悪魔」。未発表曲を集めたアルバム『thaw』の代表曲となるんだろうけど、岸田さんいわく「今回のアレンジで完成品になった」とか。なるほど元の曲もいいが、これはやはりいい曲だ。
ライブでおなじみの曲も、弦楽アレンジで生まれ変わっている。「Liberty & Gravity」なんて複雑怪奇の名曲も、くるりのライブ初のお立ち台演奏もあって、とても盛り上がった。
まあそれでも、一番盛り上がったというか、一番拍手の時間が長かったのは、やはり「ブレーメン」ということになる。絶対にこの構成ならブレーメンやるだろうと思っていたら、もちろんやってくれたし、最高によかった。いつもならドラムで盛り上がっていく部分とかが弦楽メーンになってるみたいな感じで、これはこれでゴージャスな感じ。
で、二番目に拍手が長かったのはアンコールでやった「ばらの花」ということになるか。これもアレンジがよくてな。アンコールでは「まだ外に出ていない曲」という「瀬戸の内」が一発目だった。そういう曲をやっているらしいとは知っていたが、はてなんだろうと思っていたら、新曲だった。わー、新曲だー、と思っているうちに終わってしまった。一度聴いただけではわからないが、なんか独特のリズムというかテンポというのか、ちょっと不思議な感じがあった。いずれアルバムに入ったりするのだろうか。たまにライブで未発表曲やっても、その後行方不明みたいなこともあったからな。でも、何回もやっているらしいし、これはどっかに入るかな。
ま、しかし、しかしだ。今回のライブ・コンサートの一番の印象は、タイトルに書いた「弦楽四重奏ってすごいな!」だ。おれは音楽にまったく詳しくないので、今まで生きてきて意識したこともなかったが、このライブでは音がすごく聴こえた。「摩擦の音って面白いな!」って思った。どんな風にもというと言い過ぎだろうが、いろいろな音色というか、音、音が出てくる。長かったり、短かったり、強かったり、弱かったり。それがなんか、やけにはっきりと聴こえた。神奈川県民ホールが得意とする音だったのかもしれない。もちろん、演奏者たちがすばらしいに違いないのは言うまでもない。
そんな音を、楽しめた。おれはクラシックの楽器(という表現からも音楽知らずなのがわかるだろう)とかよく知らんし、その構成なんてものもまったく知らないが、「ああ、弦楽四重奏はよいものだ」と思ってしまった。なんか弦楽四重奏の有名な曲とか聴いてみようかと思うくらいだ。くるりはいろんなところから音楽を持ってきてくれるので、勉強になる。勉強というとかたくるしい。世界を広げてくれる、というのがいいか。それならば、今回のツアーのボヤージュ、その水先案内人というのにもぴったりだ。
公演が終わって外に出ると、ひどく寒かった。帰りの客で溢れているかと思った近くのジョナサンが案外空いていた。ファミレスは久しぶりのような気もする。今さらながらネコの配膳ロボットを初めて見た。少し遅めの夕飯を食べて(みんな「ライブのあとのごはん」という問題をどうしているのだろうか。どこから来るのかもまちまちなので正解はないか。しかし、新木場とかどうしようかと思うよな)、歩いて帰った。県民ホールはなくなってしまうが、横浜ベイホールにも、なんならみなとみらいの方にも歩いていける。おれは恵まれている。そう思う。
さて、この感想もここで終わりにする。これを書きながら、くるりの曲を聴いていた……ということはない。まだ、頭のなかにいくらか残っている、一期一会の演奏を思い出していたい。いつか映像で見返したいという日も絶対にやってくるだろうけれども。