週刊Gallop臨時増刊JRA重賞年鑑

 初めてギャロップを買ったのはいつだったか。いや、はっきり覚えているぞ、表紙はワンダーパヒューム号だった。俺はまだ高校生だった。俺はその後、何年か毎号毎号ギャロップを買った。だんだん惰性になってやめた。競馬に興味がなくなった。俺は、ジャングルポケットとかマンハッタンカフェとかテイオムオペラオーのあたりがさっぱりわからない。それでも買い続けたのは年末の重賞年鑑だ。競馬と俺を繋ぐ細い線だ。いや、馬券も買っていたからそれは言い過ぎだが、他に何を買ったりもしなかったということだ。
 そして今年。俺は腰を抜かすほど驚いた。去年がどうだったのかは忘れたが、とにかく月曜の午後七時に横浜は山手のセブンイレブンにちゃんと売られていたのだ。表紙をめくれば有馬記念の記事とデータと観戦記。さらにめくれば座談会。そう、俺は特に座談会に驚いた。有馬記念の後にやっているのだ。これはとんでもないことですよ。
 「話しているのを文字にすればいいだけだから、普通に書くより早いのではないか」と思う方もいらっしゃるだろう。しかし、それは大間違い。人が喋ったのを読める文章に再構成する。それはとんでもなく面倒な作業なのだ。テープ起こしを何度かやっただけだが、もうやりたくないというのが正直なところ。そして、この座談会は四人(柴田政人井崎脩五郎合田直弘鈴木淑子)もいるのだ。やはりこういった業界の仕事の速さと正確さには、舌を巻くばかりだ。何せ、誤植らしい誤植は井崎のセリフにある「トウルビロンの2×2なんですよ」くらいじゃないのか(通常はトウルビヨンTourbillonのつづりをローマ字読みしたか)。
 ……と、ここまで誉めて、改めて見返す。すると、最初の最初に有馬の話題が集中して、以降出てこないという印象も受ける。どちらとも取れるような表現、「いろいろな壁を乗り越えたコスモバルク」など。しかし、タップダンスシチーの現役続行の話題はさらりと入っている。もっとも、それはレース数日前の決定だが……。
 まあ、いずれにせよ翌日に出るのは凄いことだ。最後に刷るのは一部分(前半はカレンダーまでの三十二折りかその半分?後半もそんなところだろう)とはいえ、その後の製本から配送まで全部やらなきゃいけないのだ。DTPにデジカメ写真、二十四時間態勢の印刷屋。しかし、言葉を書くのも校正するのも人にしかできない仕事。なあ、そんなに急ぐ必要があるのかい?