馬券はしばらくおやすみだ

 この世はもうじきおしまいだ、と歌ったのは野坂昭如だったが、俺はこうたからかに宣言する。馬券はしばらくおやすみだ、と。
 ともかく、宝塚記念の週までは、馬券をびた一文買わない。俺はそう決めたんだ。いや、決める、決めないというのは意志の問題だ。意志は問題にならぬ。事情がそれを許さぬ。事情ってなんだ、懐事情であり、精神事情。買わないのではなく、買えない。
 いや、まあ、別に、ちょっと買ってもいいけれど、俺はそれで幸せにならない。幸せにならないのはそれでいい。しかし、違うんだ、ちょっと違うんだ。まってくれ話を聞いてくれ、そういう話じゃないんだ。なんというのか、興が乗らないんだ。そんなときは、ちょっと休めばいいんだ。競馬が強迫になってはいかん。自由だ、自由の競馬なんだ。福島の開幕週を見する自由だってある。けど、見すると見せ掛けて、ちょっと買う自由もあるけれども、自由ならば自由で、そのとき決めればいいんだ。先のことを考えるな、先の奴隷になるな。後ろをふり返るな、後ろにはなにもない。ハイセイコーがハンドバッグを買って、なんとネームを入れたか、俺は寺山修司に聞きたい。そういうことだ。いつだってそういうことなんだ。