『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』を観る

 白黒映画である、ということしか作品について知らないで見た。高速道路をトボトボと歩く老人、パトカーが止まり、声をかける……。

モンタナ州のウディ・グラント様 我々は貴殿に100万ドルをお支払い致します"
誰が見ても古典的でインチキな手紙をすっかり信じてしまったウディは、ネブラスカまで歩いてでも賞金を取りに行くと言ってきかない。
大酒飲みで頑固なウディとは距離を置く息子のデイビッドだったが、そんな父親を見兼ね、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せて、4州にわたる旅へ出る。
途中に立ち寄ったウディの故郷で、デイビッドは想像もしなかった両親の過去と出会うのだが―。

 ロードムービー? かな。途中で立ち寄った父の故郷が長い。ただしエピソードは過去と現在を行き来して飽きさせることはない。はっきり言ってこいつは面白い。面白い映画だ。乾いたユーモアも人間というもののどうしようもない悲しさも、すべて白黒の画面に無駄なく焼き付けられている。
 とんでもない大事件が起こるわけでもない、すごい大人物が出てくるわけでもない。ただ、アメリカのそこらにいそうな人間しか出てこない。アメリカのそこらにいそうな人間が、愚かなことをするし、ちょっぴり良いことをする。それぞれに過去があって現在がある。その先もあるのだろう。
 こういう名作に出会うと、なにかしら動揺するところがある。映画みたいなものを作ろうとして、大事件や大人物が出てくるならわかる。面白い、つまらないは別として、「こういう映画を作ろうとしたんだな」と思える。一方で、この『ネブラスカ』みたいなのは、果たして面白い映画になる見込みというのがあるのだろうか、ということにはならないのだろうか、などと思う。おまけに白黒だったりする。超人に返信する主人公や、ビルより大きな怪獣が出てくるよりも、なにかたいへんなことのように思えるのだ。