『御緩漫玉日記 (2)』桜玉吉

goldhead2006-04-10

ASIN:4757725957
一巻:id:goldhead:20050203#p2
 「えー、この漫画って雑誌に連載してるのー?」と脳内彼女に驚かれてしまった。「※このプレゼント企画は雑誌掲載時の〜」という枠外注意書きを見つけたのだ。それで俺は、この枠も何かも溶け出しているような、それでいてマジックで描き殴られたような黒々とした紙面をあらためて眺めた。「言われてみれば、そうだな」と思った。内容はといえば、四十過ぎた親父漫画家が鬱になったり病気になったりしつつも、妄想世界にも溶け出している日記漫画ではないか。下手すれば根本敬っぽい‘特殊漫画’の雰囲気ですらある。いや、根本敬も好きですよ?
 そして俺は、しばらく前に話題になっていた、吾妻ひでおの『失踪日記』についてのレビュー(http://comitsu.blog47.fc2.com/blog-entry-37.html)についてのことを思い出した。レビュアーの人は「作者について知識の無い人にしか楽しめないもの」という見方を持っていたようだ。しかし、俺は『失踪日記』がとてもいい漫画だと思ったが、作者についてはほとんど知らなかった(id:goldhead:20060127#p2)ので、「そうは言い切れねえだろう」とか思った。それで、「漫画ってのは思ったより伝わらないものだな」とか思ったものだ(それもまた一方的な物言いだろうが)。あと、関係ないが、世の中で(精神的)ホームレスになることもなく、メーンの場所に居るのはレビュアーの人の方だろうとか思ったり。
 さて、『御緩』、これはどうだろう。これは「従来からの作者のファンにしか伝わらない漫画」ではないのか。どうなんだろうね。俺はファミ通の『しあわせのかたち』からずっぽりのファンなので、もはや「ファンでない人が見たらどうなるか」を想像するのが難しい。しかし、別に他人のことなどどうでもよく、俺が楽しめればいいのだ。とはいえ、多少そういうことが気になるのはなぜだろうか。ひょっとしたら、さすがにこの巻の絵が全編こんな感じなのが多少引っかかっているのかもしれない。
 いや、違うな、絵じゃない。俺はビーム本誌をいっさい知らない。だから、玉吉の動向というかそういったものがわからず、単行本から単行本へ飛ぶことになる。それで、いきなりの二巻の展開を見て、「間にもう一冊あるんじゃねえのか?」という感じを味わったのだ。なんかミッシングリンクあんの? みたいな。基本的に妙な内輪感が頼りの漫画だけに、この疎外感が引っかかったのかもしれない。しかし、検索していろいろ見てみると、別に何もなくこうなったようだ。いや、何もなくでもなく、虫垂炎および腹膜炎などという事態があったりもあったわけなのだろうけど、そこらあたりのライヴ感(?)は本誌を買う人の特権かもしれない。
 というわけで、もはや全身小説家ASIN:B00005HPKP)ならぬ、全身漫画家になりつつある桜玉吉。あるがままをさらけ出すのでは半身、この虚構と真実がない交ぜになって交互に織り上げていくのが全身だ。そのあたり、おっとりエロ路線(俺は桜玉吉のエロは妙に悶々としていて好きだ)も含めて、つげ義春id:goldhead:20050404#p2、id:goldhead:20050428#p2)を目指すのか、今後も注目せざるを得ない。単行本だけしか買えないけれど。
 あと、脳内彼女はちょっとO村について説明したくらいで、後は全部読んでしまったようなので、あまり「知らない人」に対する心配はないのかもしれない。脳内でそんな風に思った。