感想文

タルホ的、あくまでタルホ的な

こんな本があった。 稲垣足穂詩文集 (講談社文芸文庫) 作者:稲垣 足穂 発売日: 2020/03/12 メディア: 文庫 まあ、稲垣足穂については本人が言うところのこれに尽きるのだが。 この物語を書いたのが十九歳の時で、以来五十年、私が折りにふれてつづってきたの…

穂村弘『にょっ記』を読む。

おれは穂村弘のことはよく知らない。よく知らないが、高橋源一郎の文章で何回か名前を見たことはある。本棚で『にょっ記』という本を見かけたので、手にとってみる。すると、こんな文章が目に入る。 4月3日 武蔵丸 武蔵丸の夢をみる。 夢のなかで武蔵丸は悲…

映画『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』を観る

ハン・ゴンジュ 17歳の涙 [DVD] 発売日: 2015/03/04 メディア: DVD はじめに断っておくが、この映画は性暴力を取り扱っている。 それに触れたくない人は引き返してください。 本作は、韓国で起きた現実の性暴力事件を元にしている。いかにもホモソーシャルな…

植物の名前を知ってる方がモテそうな気がする 『ヘンな名前の植物』を読む

ヘンな名前の植物 作者:藤井 義晴 発売日: 2019/04/17 メディア: 単行本 植物の名前を知ってる方がモテると思う。銑鉄について知っているより植物の方がいい。 「あれはヘクソカズラの花だね」 「キチガイナスビの実がなっているよ」 「立派なヨグソミネバリ…

ルソー『人間不平等起源論』を読む

人間不平等起源論 (光文社古典新訳文庫) 作者:ジャン=ジャック ルソー 発売日: 2008/08/07 メディア: 文庫 所有という観念の発生 ある広さの土地に囲いを作って、これはわたしのものだと宣言することを思いつき、それを信じてしまうほど素朴な人々をみいだし…

桜玉吉が60歳になる世界線―『伊豆漫玉エレジー』

伊豆漫玉エレジー (ビームコミックス) 作者:桜 玉吉 発売日: 2021/04/12 メディア: Kindle版 おれが死ぬか作家が死ぬかどっちか先かわからないけど死ぬまで書いつづけると決めている漫画家といえば桜玉吉をおいて他にいない。 おれと桜玉吉、桜玉吉とおれ。…

グロいのは苦手なの 映画『ミッドサマー』

ミッドサマー(字幕版) 発売日: 2020/06/17 メディア: Prime Video ミッドサマー(吹替版) 発売日: 2020/09/09 メディア: Prime Video なんとなくホラーだとかそういう感じだということは事前に知っていた『ミッドサマー』。もしもおれの日記を長いこと読…

二回目の『シン・エヴァ』は本当になんていうことなかったわ

二回目の『シン・エヴァンゲリオン』鑑賞。今度は女と一緒に行った。女はアマプラで新劇場版を予習した上に、解説You Tubeを見てきたという。女は庵野秀明とほぼ同世代である。『Q』だけがよくわからないと言っていた。 シアターはブルク13のIMAX。おれが最…

100日後に死ぬ『俺の家の話』

www.tbs.co.jp おれと宮藤官九郎と長瀬智也。おれが彼らの作品をテレビで見る。それだけの関係である。その関係がはじまったのは2005年のことだった。 goldhead.hatenablog.com 『池袋ウエストゲートパーク』の再放送。これである。これでおれは宮藤官九郎が…

『石牟礼道子追悼文集 残夢童女』を読む

そして三、四年前石牟礼さんの所に週に一度行って手足になってくれと渡辺京二さんに頼まれて、久しぶりに石牟礼さんの周りをうろつくことになった。今度も「おまえヒマそうだな」なのだ。石牟礼さんに会うとやがて「ワガママ、気まぐれ、思いつき大明神」と…

映画『悪魔は誰だ』をみる

悪魔は誰だ [DVD] 発売日: 2015/02/04 メディア: DVD 韓国映画『悪魔は誰だ』を見た。 悪魔は誰か? という映画だ。時効を迎える誘拐事件、新たに起こる誘拐事件。刑事、元刑事、15年前の被害者、真相に迫ろうとする。真相はどこにあるのか。 ……って、言えね…

アメリカの黒人はどう扱われたのか? 小説『地下鉄道』を読む

地下鉄道 (ハヤカワepi文庫) 作者:コルソン ホワイトヘッド 発売日: 2020/10/15 メディア: Kindle版 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞、カーネギー・メダル・フォー・フィクション受賞。19世紀初頭のアメリカ。南部のジョージア州にあ…

ジャック&ベティに映画『KCIA 南山の部長たち』を見に行くのこと

映画『KCIA 南山の部長たち』公式サイト|2021年1月22日公開 おれはそれなりに韓国映画(おもにダークなやつ)を見てきたつもりではあるが、たとえば「イ・ビョンホン」と打ったところでイ・ビョンホンのファンが、韓国映画、ドラマファンがどのように思うか…

【ネタバレ】エヴァグッズをお恵みいただいたので、『シン・エヴァンゲリオン』感想延長戦【お恵み】

それは月曜には届いていた。だが、おれは映画に行くことに浮足立っていて、「明日開ければいいや」と思っていた。 そして、今日開けた。 中から出てきたのはエヴァグッズだった。エヴァグッズ以外のなにものでもない、粋な計らいに(最初、船橋方面と書いて…

ふりむくな、うしろには夢がない ― さよならエヴァンゲリオン 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』感想

ふりむくと 一人のマニアが立っている かれはエヴァンゲリオンの新作が出るたび うれしくて 三度も劇場に通った ふりむくと 一人の失業者が立っている かれは綾波レイのフィギュアを売って 苦しい月末の飢えをしのいだ ふりむくと 一人の人妻が立っている 彼…

園子温『ラブ&ピース』を観たが

ラブ&ピース 発売日: 2015/11/25 メディア: Prime Video 園子温にあらためて当たってみようということで、『ひそひそ星』につづいて、これを観てみた。 が、悪い、すまん、ごめん、ちょっと感想書くの忘れていたら、話の内容が飛んでしまった。 というか、…

おれはその石の在り処を知っている! 『よつばと!』15巻を読む

おれは少し前にこんなツイートをした。 一ヶ月、いや、二ヶ月まるまる使って、気になっている漫画をひたすら読む時間が欲しい。そのくらいおれは漫画と遠ざかりすぎている。— 黄金頭 (@goldhead) 2021年2月21日 おれは漫画大好き少年であったのに、二十歳の…

真鍋昌平『九条の大罪』第一巻を読む

土曜の朝、目が覚める。土曜日にアラームは鳴らさない。布団から出る気がしない。適当にiPhoneをいじる。すると、以下のtogetterが話題になっていた。 【漫画】ウシジマ君作者による最新作『クズが交通事故を起こしても無罪になるのはこんな理由』が胸糞悪い…

またいつか澁澤龍彦を読み返したい―『澁澤龍彦玉手匣』を読む

澁澤龍彦玉手匣 作者:龍彦, 澁澤 発売日: 2017/07/27 メディア: 単行本 作家に長篇型と短編型があるとすれば、私は明らかに後者であろう。だから極端にいうと、たとえば原稿用紙一枚か二枚の推薦文などに、私のもっとも得意とする領分があるのではないかと思…

池澤夏樹『双頭の船』を読む

双頭の船 作者:池澤 夏樹 メディア: 単行本 双頭の船とは、要するに両頭船のことであり、あっちが前か、こっちが前か、どっちも前だというフェリーのことである。 主人公は、恩師のすすめでこの双頭の船に乗ることになる。行き先は北だ。北のどこだ。被災地…

『こち亀』愛憎 「『こち亀』社会論」(稲田豊史)を読む

『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く 作者:稲田 豊史 発売日: 2020/09/12 メディア: 単行本(ソフトカバー) 『こち亀』とおれ、おれと『こち亀』。それについては日記に書いてきたので、気になるなら読まれたい。 goldhead.hatenablog.com 最初に…

とこでニッサって誰だ? 『植物のあっぱれな生き方 生を全うする驚異のしくみ』(田中修)を読む

こないだ、はてな匿名ダイアリーで「植物が怖い」という人がいた。 自分は植物恐怖症です。というより、お前らなんで植物怖くないの?? アイツラは生きている。 大量の花が同じ場所で何日も何ヶ月もずっと空を見ているんだ。 何を考えているのかわからない…

話の素材はいいぞ 映画『エクストリーム・ジョブ』を観る

エクストリーム・ジョブ(字幕版) 発売日: 2020/04/10 メディア: Prime Video エクストリーム・ジョブ(吹替版) 発売日: 2020/07/03 メディア: Prime Video 冴えない間抜けな麻薬取締班が、犯罪組織を見張るために向かいのチキン屋を買い取るが、囮のはずの商…

ここまで娑婆をえぐるのか! ―映画『すばらしき世界』をみる

wwws.warnerbros.co.jp 13年ぶりに出所した三上が見る新たな世界とは―。私たち観客はテレビマン、津乃田の覗き見るかのような視点によって、主人公 三上の一挙一動を目の当たりにしていく。一度ぶち切れると手がつけられないトラブルメーカーである半面、…

自分の内と外とは? 『記憶する体』を読む

記憶する体 作者:伊藤亜紗 発売日: 2020/04/15 メディア: Kindle版 おれが「身体」と書いたら、「からだ」とルビをふるのが正しいと言っておきたい。おれは身体について興味がある。これだけ書くとへんな感じだが、なんというか、自分も含めた人間というもの…

しばしの別れ 横浜美術館『トライアローグ』へ

横浜美術館、来たこれ。 2年くらい休館するので、このご時世だけれども行っておくかという。まあ、完全予約制やし、換気はどうかわからんが、おしゃべりする人間も少ないだろう。 トライアローグ出品作品感想 で、やっているのはこれである。 yokohama.art.m…

反出生主義者はへこたれない 森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか?』を読む

生まれてこないほうが良かったのか? ――生命の哲学へ! (筑摩選書) 作者:正博, 森岡 発売日: 2020/10/15 メディア: 単行本(ソフトカバー) おれは反出生主義者を自認している。 おれの反出生主義は、シオランを読んで目覚めたものでもなければ、べネターを読…

小川一水『コロロギ岳から木星トロヤへ』を読む

コロロギ岳から木星トロヤへ 作者:小川一水 発売日: 2013/11/15 メディア: Kindle版 おれは小川一水の『天冥の標』を読んだ。すばらしい読書体験だった。小川一水はほかに二冊くらい読んだかもしれない。『コロロギ岳から木星トロヤへ』は未読だった。未読だ…

映画『ブルータル・ジャスティス』と映画秘宝についてちょっと

ブルータル・ジャスティス(字幕版) 発売日: 2020/11/02 メディア: Prime Video 映画『ブルータル・ジャスティス』をみた。正直、長い映画だった。けれど、スマホを見たり、早送りしたりということはなかった。それなりに見せる映画だった。けれど、長かった…

オストアンデル! 『俗語発掘記 消えたことば辞典』を読む

俗語発掘記 消えたことば辞典 (講談社選書メチエ) 作者:米川明彦 発売日: 2016/12/23 メディア: Kindle版 広大なネットのどこでなにを読んだのだか忘れてしまったが、「死語おもしろいな!」と思ってこの本を手にとった。あるいは、この本の紹介を読んだのか…